家族の絆と決意
アルベルト家の屋敷に戻ると、冷たい空気とは対照的に、広間には暖かな灯りがともされていた。執事が用意した茶の香りが漂う中、ヴィクトリアが椅子に腰を下ろし、リナに柔らかく微笑みかける。
「さあ、リナ。これからどうするか、一緒に考えましょう。」
リナは深く息を吸い込み、静かに頷いた。柱の前で感じたあの冷たい力――ただの魔力ではない、確かな悪意を宿した何か。それを思い出すたび、彼女の決意は一層強くなっていた。
「セレーナの報告によれば、レイナは王宮地下の柱を解こうとしているらしい。」
レオンの声は鋭く、広間の空気を引き締める。
「だが、彼女は4本全ての封印を解かなければ魔王は復活しないことを知らない。」
リナは地図を睨みながら問いかけた。
「レイナは魔王封印の情報をどうやって知ったのでしょうか?」
レオンが指を止めて応じる。
「セレーナの報告では、レイナが『先生』と呼ぶ人物に従っていることが分かっている。」
「先生……。」
リナはその言葉を繰り返した。彼女の脳裏に、ある記憶が浮かび上がる。
◇
「先生」という言葉に触れた瞬間、リナの脳裏に王宮での謁見の場面が鮮明によみがえった。国王とサイラス、そしてローレンツが交わしていた会話――それが、今になって意味を持ち始める。
――「ローレンツ殿、我が息子が在学中にそなたの世話になったようだな。」
――「そのようなお言葉を頂き、光栄に存じます。王子殿下は優れた生徒でいらっしゃいました。」
リナは目を見開き、ヴィクトリアとレオンを見た。
「先日、謁見したときに国王が魔法学者のローレンツに、王子が世話になったと言っていました。」
ヴィクトリアの眉がわずかに動く。
「確かに彼は学園で魔法学を教えていたわ。」
リナは迷いながらも言葉を続ける。
「根拠はありません。ただ、気になるんです。レイナが学園時代に教わっていた『先生』がローレンツなら、彼が背後で何か企んでいる可能性があるのではないかと。」
「ローレンツが……。」
レオンが地図の端に視線を落としながら呟いた。
「ただ、彼もどうやって、そして何のために封印に関する極秘情報を手に入れたのか……それが鍵だ。」
ヴィクトリアが思案顔で言葉を補足する。
「サイラスによると、ローレンツはグランディール王国の魔法学者とも親しかったそうよ。」
「グランディール王国……。」
リナの表情が険しくなる。
「グランディールの魔法学者が我が国の封印に詳しいとは考えにくい。」
レオンが地図を指しながら低く呟いた。
「それに、1本でも封印が解ければ全体が不安定になる。瘴気が広がり、王都に魔物の侵入を許すことになるだろう。」
ヴィクトリアが静かに補足する。
「黒幕は、それが目的かもしれないわ。レイナの知らないところで封印を混乱させ、国全体を揺るがせるために。」
リナは深く息をつきながら呟く。
「レイナを止めないと……。でも、彼女の力がなければ封印の再構築もできません。」
「その件は心配無用だ。」
レオンが低い声で遮った。
「アルベルト家に楯突いた者がどうなるか、奴に身をもって学ばせる。」
「……お、お父様?」
リナが戸惑いの声を漏らすと、レオンはわずかに目を伏せた。
「お前が家を出たとき、私は間違いに気づいた。」
リナは驚きに目を見開く。レオンが初めてそんな言葉を口にしたからだ。
「私はただ、お前を強くしたいと思っていた。だが、それが冷たさしか与えなかったとは……。」
言葉を選びながら、レオンは深く息をついた。
「今は、もう二度と同じ過ちは繰り返さないと誓っている。」
ヴィクトリアが柔らかい笑みを浮かべた。
「ようやくあなたも、父親らしい言葉が出るようになったわね。」
「母上、今はそれどころではない。」
レオンが照れ隠しのように咳払いし、地図に視線を戻す。
「リナ、私はお前の力になりたい。そして、家族としてこの危機を乗り越える。」
リナはその言葉に胸が熱くなるのを感じた。
「お父様……。」
ヴィクトリアが紅茶を一口飲み、冷静に提案した。
「まずは、ローレンツが封印についてどこまで知っているのかを調べるべきね。そして、レイナを通じて彼との関係を突き止めるのよ。」
レオンが頷きながら地図を片付けた。
「サイラスの力を借りる必要がある。彼がローレンツの動きを探り、情報を集める。こちらでもさらにその裏の繋がりを探す。」
「はい。私も、できる限りのことをします。」
レオンが力強く頷く。
「その通りだ。家族全員でこの危機に立ち向かうぞ。」
重々しい空気の中に、確かな団結が生まれた。
リナは再び地図に視線を落としながら、家族の強さに背中を押されるのを感じていた。
「……私は一人じゃない。」
彼女は心の中でそう呟き、光魔力の謎を解くための新たな決意を胸に秘めた。




