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元悪役令嬢、毒を以て毒を制する  作者: セピア色にゃんこ
第1章 悪役令嬢、家出する
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アルベルト家の柱


「まずはアルベルト家の柱を確認しよう。」


レオンが低く断言し、3人は屋敷の裏手にある深い森へと向かった。

そこには初代当主が築いた石造りの小さなほこらがあり、その中に封印の柱が隠されている。

通常は結界によって外部からは見えない場所だが、家族だけがその中に入ることを許されていた。



祠の中に入ると、そこには黒く艶やかな柱がそびえ立っていた。

わずかに紫がかった光を帯び、その表面には複雑な紋様が刻まれている。


「ここが……アルベルト家の柱。」


リナは柱を見上げ、思わず呟いた。

幼い頃に何度か訪れた場所だが、今はその威圧感に圧倒されていた。


「初代当主が命を削って築いた封印だ。」


レオンが厳しい声で言い、柱の表面を指でなぞる。

その表情には焦りの色が滲んでいた。


「封印はまだ保たれているが、魔力の流れが不安定になりつつある。」


「この柱、王宮で見たものと同じ術式ですね。」


リナが慎重に柱に近づきながら呟くと、ヴィクトリアがうなずいた。


「ええ。ただし、この柱には初代当主の闇魔力だけでなく、初代ルミナス国王――つまり勇者が用いた光魔力も組み込まれているのよ。」


「光魔力……。」


リナは驚いた表情を浮かべた。


「勇者の力が柱の封印に使われているなんて……。」


「初代国王と初代当主が共に力を合わせ、この国を魔王の脅威から守ったのよ。」


ヴィクトリアが淡々と説明を続ける。


「ただ、その光魔力が今、封印を維持するための重要な要素になっている。そして、現代にはそれを再現できるだけの力を持つ者がほとんどいない。」


レオンが短く息を吐き、柱に手をかざした。

彼の手から放たれた闇魔力が柱に吸い込まれるように消えていく。


「まるで底なしの井戸だな。封印の修復となると、術式そのものがこちらの魔力を弾き返す可能性すらある。」


「でも……この柱が維持されているということは、まだ完全に壊れたわけではないんですよね?」


リナは柱を見つめ、慎重にその魔力を感じ取ろうとしていた。

冷たい空気の中、柱から漂う黒い瘴気が波のように広がり、祠全体を覆っているのがわかる。


「……この魔力、普通の闇魔力とは違います。」


リナが低く呟くと、ヴィクトリアが穏やかながら鋭い声で補足した。


「ええ。これは魔王の魔力そのものよ。初代当主が柱に封じ込めた瘴気がまだ生きている証拠。」


「ですが、それだけではありません。」


リナは柱の周囲に漂う魔力の流れをじっと観察した。

その動きには規則性があり、単なる暴走ではなく、何らかの力が意図的に柱を支えているように感じられた。


「柱そのものを維持するために、この魔力が内部で循環しているみたいです。」


レオンが腕を組み、険しい表情で口を開いた。


「循環だと?」


「ええ。瘴気のように見える魔王の魔力が、封印の結界と絡み合って柱を補強している。つまり、この魔力自体が封印の一部になっている可能性が高いです。」


「興味深い考えね。」


ヴィクトリアが微笑みながら、リナに目を向けた。


「封印を単なる防壁と捉えるのではなく、その力を利用している……。それなら、この魔力を外部から強化する余地もあるわね。」


リナはうなずき、さらに自分の考えを続けた。


「もし、この魔王の魔力をさらに安定させて増幅できれば、封印自体を強化することも可能になると思います。ただし、問題はその制御方法です。」


「制御……。」


レオンが柱に目を向け、考え込むように呟いた。


「魔王の魔力は強力すぎる。下手に手を出せば封印そのものを壊しかねん。」


「ですが、この柱の現状を見ても、魔力の減少は避けられません。このままでは封印が崩壊するのを待つだけになってしまいます。」


リナの言葉に、レオンは目を細めた。


「つまり、放置すれば封印が緩むが、強化するには魔力を制御する方法を見つける必要があるということか。」


「はい。そのためには、まず柱の内部で魔力がどう循環しているのかを詳しく解析する必要があります。」


ヴィクトリアが柱を見上げながら付け加えた。


「封印を設計した初代当主の記録をもう一度確認するべきね。そして、その術式に魔王の魔力を安全に組み込む方法を模索する。」


「……確かに。」


レオンが深く頷き、リナに視線を向けた。


「リナ、お前の考えは理にかなっている。だが、この柱の魔力を増幅するという行為は危険を伴う。その覚悟が必要だ。」


リナは父の言葉を真剣に受け止め、小さく頷いた。


「わかっています。でも、この魔力を無駄にしない方法を見つければ、封印を修復するだけでなく、前よりも強固にすることができます。」


リナが決意を込めて言うと、ヴィクトリアは柔らかな笑みを浮かべながら静かに頷いた。


「リナ、あなたの観察力と知識は理にかなっているわ。ただし、それだけでは十分ではない。」


「どういうことですか?」


リナが戸惑いながら尋ねると、ヴィクトリアは柱を見上げながら続けた。


「封印を再構築するには、もう一つ重要な要素がある。それは、勇者が使った光魔力よ。」


「光の魔力……。」


リナは柱を見つめながらその言葉を繰り返した。


「その通り。」


ヴィクトリアが深く頷く。


「初代当主がこの封印を作る際、魔王の瘴気を封じ込めるためには、闇だけでなく光も必要だった。勇者が使った光魔力が結界の柱を安定させる役割を果たしていたの。」


「つまり……今の私たちの手元には、その光の魔力がないということですか?」


リナが問い返すと、ヴィクトリアは厳しい表情で頷いた。


「ええ。そして、その力を持つ者は代々王族によって保護されているの。」


「保護されている光の魔力の使い手……。」


リナは柱を見つめたまま、次第に一つの名前を思い浮かべた。


「……レイナ。」


その名を口にすると、リナの胸には複雑な感情が渦巻いた。

かつて自分を追放へと追いやった張本人が、今度は自分たちの救いになる可能性を持っている。


冷たい風が森を抜け、祠の中の静寂を揺らした。

リナは柱から手を離し、深く息をついた。


ヴィクトリアがリナの肩にそっと手を置きながら言った。


「これ以上ここにいても得られるものはないわ。屋敷で計画を練り直しましょう。」


「そうだな。」


レオンも短く同意し、柱を一瞥して踵を返す。


リナは再び柱に視線を戻した。

その黒く脈動する光に込められた魔力を感じながら、心の中で静かに決意を固めた。

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