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元悪役令嬢、毒を以て毒を制する  作者: セピア色にゃんこ
第1章 悪役令嬢、家出する
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王宮地下への潜入

ルミナス王国の国王から地下調査を許可されたサイラスたち。

しかし、その場には新たな同行者が加わることとなった。


控室で準備をしていたリナが、少し困った表情でサイラスに囁いた。


「護衛だけじゃなく、王立研究所の魔術師さんまで同行するなんて……調査というより、監視されている気分です。」


サイラスは穏やかな声で答えた。


「監視されているのは間違いないだろう。だが、彼らも地下の異常を軽視しているわけではない。」


「……気をつけます。」


リナがそう言って頷いたその時、控室の扉が開いた。


「お待たせしました。」


鋭い目元に銀縁の眼鏡をかけた男が入ってきた。王立研究所の主任魔術師、エリオット・クラインだ。


「グランディール王国の第二王子殿下が、わざわざルミナス王国の地下調査に興味を持たれるとは……実に興味深い。」


皮肉じみた言葉に、サイラスは少しも動じず微笑を返した。


「興味ではなく、国際的な協力だ。クライン氏、あなたの知識を頼りにしている。」


その場の空気が少し張り詰めた中、別の声が割って入った。


「まあまあ、協力が目的なのだから、お互い仲良くしましょうよ。」


ローレンツが柔らかな笑みを浮かべながら言い、エリオットに軽く会釈した。


「ローレンツさんも同行してくださるとは心強い。」


サイラスが言うと、ローレンツは「もちろん」と言いながら軽く杖を振った。


「では、早速向かいましょうか。」


エリオットが扉を開け、待機していた騎士たちが動き出した。



地下への入り口は王宮の裏手にあった。

階段を下りると、ひんやりとした空気が体を包み込む。

古びた石造りの壁には苔が生え、ところどころに古代文字が刻まれている。


「この文字……アルベルト家の魔術に似ています。」


リナが囁くように言うと、エリオットが興味深げに振り返った。


「ほう、それを知っているとは。ただの付き人ではないようですね。」


リナは平静を装い、冷静に答えた。


「薬学を学んでいた際に、古代文字に少し触れたことがあります。」


「なるほど、実に優秀な付き人だ。」


エリオットの挑発的な言葉に、リナは動じず歩みを進めた。その様子を見て、ローレンツが小さく笑みを浮かべた。



通路の奥へ進むにつれ、空気が次第に重くなり、黒い霧――瘴気が漂い始めた。


「瘴気の濃度が高まっている。全員、気をつけて進め。」


エリオットが杖を掲げると、魔力の光が霧を押しのけた。


「助かります、クライン氏。」


サイラスが短く礼を言い、リナは慎重に足を運んだ。


ローレンツは、リナにそっと耳打ちした。


「瘴気の流れ……まるで柱に誘われているかのようですね。」


リナはローレンツの言葉に頷きながら、慎重に観察を続けた。



柱の部屋に到着した時、リナはその光景に息を呑んだ。


部屋の中央には黒く輝く石柱がそびえ立っている。

その表面には無数のひび割れが走り、不気味な赤い光が脈打つように放たれていた。


「これが封印の柱……。」


リナが歩み寄ろうとすると、エリオットが手を挙げて制止した。


「待ちなさい。この柱には強力な結界が張られている。魔力を読み取るには注意が必要だ。」


彼は杖を振り、柱を囲む結界の状態を確認し始めた。

杖から淡い光が放たれ、柱の周囲を包み込むように広がっていく。


「……結界が弱まっている。瘴気の影響か、それとも外部からの干渉か。」


エリオットの言葉に、ローレンツが興味深げに柱を見つめた。


「外部からの干渉、という可能性が高いかもしれませんね。この瘴気の流れ……不自然な乱れがあります。」


リナも慎重に柱を観察した。

結界の表面に残る微細な痕跡を目で追い、手をかざして魔力の流れを探る。

しばらくの沈黙の後、彼女は低く呟いた。


「光魔力の痕跡がある……。」


その言葉に、エリオットが顔を上げ、険しい目つきでリナを見た。


「光魔力だと? 柱は闇の魔力で守られているはずだ。」


「ええ。それなのに、ここには明らかに光魔力の影響が残っています。」


リナは一歩前に進み、柱のひび割れ部分を指差した。


「ここ、そしてここ……。光魔力の波動が刻まれています。おそらく、何者かが封印を破ろうとして光魔法を使った痕跡です。」


彼女の指摘に、エリオットは険しい表情で杖を振り、柱の状態をさらに詳しく調査した。


「……なるほど。確かに、光魔力による強引な干渉が行われている。」


エリオットは呟きながら、さらに視線をひび割れに集中させた。


だがその瞬間、柱が低い振動音を発し、赤い光が一際強く脈動した。


「危険だ!」


エリオットが叫び、さらに強力な結界を張ろうとしたが、柱から溢れる瘴気が結界を押し戻した。

その勢いに護衛の騎士たちも驚き、慌てて武器を構える。


「この瘴気……強すぎる!」


リナは柱を見つめ続けたが、溢れ出る瘴気に意識が揺らぎそうになる。

その瞬間、サイラスが彼女の肩を掴み、素早く引き戻した。


「退避しろ!」


サイラスの指示で騎士たちが即座に行動を開始した。

ローレンツはその場で結界を張り直し、瘴気の流れを一時的に封じ込めたが、明らかに限界が近い様子だった。


「これ以上は危険だ。一旦退却しましょう!」


エリオットの声に、一行は急ぎ地上への撤退を開始した。

柱の異常が明らかとなり、その場に残された光魔力の痕跡が、調査をさらに複雑なものにしていた――。



調査は中断を余儀なくされ、一行は急ぎ地上へと戻った。


柱の異常が確実に進行していることが明らかになり、さらなる対策が必要となった。


その裏で、ローレンツが密かに不敵な笑みを浮かべたことに、誰も気づくことはなかった。

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