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元悪役令嬢、毒を以て毒を制する  作者: セピア色にゃんこ
第1章 悪役令嬢、家出する
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自由への第一歩

薄明かりが窓から差し込み、静かな朝が始まる。

目を開けた私は、柔らかな光に包まれた天井を見つめ、ゆっくりと呼吸を整えた。

ベッドの硬さが心地よく、どこか新鮮だった。

マーサの声も、誰かが支度をしてくれる音もない朝。

これが「自由」というものなのだろうか。



冷たい床に足をつけ、荷物から選んだ服を手に取る。

それはシンプルな布地の、動きやすさを重視した服だった。

薄い生地が指先に触れるたび、豪華なドレスの重さを思い出し、肩が軽く感じる。


鏡の前に立ち、新しい服に袖を通す。

ぎこちない手つきで紐を結び、整った姿を確認する。


「これが……新しい私。」


鏡に映る自分は、どこか違う人のようだった。

華やかさのない姿だが、見つめれば見つめるほど落ち着きを感じる。

大きく息を吸い、荷物を肩にかけて部屋を後にした。



階下に降りると、食堂には温かな香りが漂っていた。

鍋から立ち上る湯気、窓から差し込む柔らかな光、朝の静けさを壊さない女将の足音――

どれもが心を穏やかにしてくれる。


「おはよう、お嬢さん。」


女将が気づいて笑顔を向ける。

私は微笑み返しながら言った。


「おはようございます。もう出発しようと思います。」


「そうかい。気をつけてお行き。何かあったら、またここに戻ってくればいいよ。」


「ありがとうございます。」


彼女の言葉には、どこか母のような温かさがあった。

私は荷物を握り直し、宿を後にした。



外に出ると、ひんやりとした朝の空気が頬を撫でた。

空はまだ少し霞んでおり、朝靄が草木を包んでいる。

足元には夜露をまとった草が広がり、その香りが私を包み込んだ。


宿を振り返ると、小さな窓から朝の光がこぼれていた。

暖かい場所を背に、私は薬草の森を目指して歩き始める。


遠くに見える森は、朝靄の中でぼんやりと浮かび上がり、まるで新しい世界への入り口のようだった。

「ここからが始まり……」

呟いた声は、朝の静けさの中に溶けた。



森への道のりは穏やかで、時折小鳥のさえずりが聞こえる。

草原を横切る風が、私の髪をそっと揺らした。


ふと立ち止まり、遠くの森を見つめる。

その奥には、私が目指す新しい生活の可能性が待っている。

薬草を集め、自分の力で生きていく――それが今の私にできる唯一のことだ。



森の入り口に近づくと、朝靄が少しずつ晴れ始める。

陽の光が木々の隙間から差し込み、地面に柔らかな模様を描いていた。

その光景はまるで、私を迎え入れるかのようだった。


足を踏み入れると、湿った土の香りが鼻をくすぐり、草のざわめきが耳に届く。

新しい生活の始まり――この森の中で、私は自分の道を切り開いていく。


「大丈夫、やれるわ。」


心の中で自分に言い聞かせ、私は森の奥へと足を進めた。

明るく輝く光の向こうには、希望が待っているように思えた。

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