魔法学者ローレンツ
ヴィクトリアの屋敷では、サイラスとリナ、ヴィクトリアが作戦会議を開いていた。
「ローレンツに同行を頼みたいと思う。」
サイラスがヴィクトリアの書斎でそう切り出した。
「ローレンツ……魔法学者のローレンツですか?」
リナが戸惑いを隠せない表情で尋ねる。
「彼は過去にグランディール王国と交流があった。僕の立場を知っている数少ない人物の一人だ。謁見自体は僕の名前で取り付けているが、王宮地下の調査には専門的な助言が必要だろう。」
「なるほど。学者としての意見を借りる、ということですね。」
リナがそう呟くと、ヴィクトリアが口を挟んだ。
「ローレンツは確かに信頼できる人間よ。ただ、彼を説得するには適切な理由が必要でしょう。」
「理由は十分ある。瘴気の発生源調査という名目と、王宮地下に隠された異常な魔力の調査だ。」
サイラスの言葉にヴィクトリアはしばらく考え込み、やがて頷いた。
「ならば、連絡を取る価値はあるわね。彼が協力してくれるなら、調査の精度も上がるでしょう。」
◇
数日後、リナとサイラスはローレンツの研究室を訪れていた。
薄暗い部屋の中、書物や魔道具が所狭しと並べられている。
「これはこれは、サイラス殿下。珍しいお客様だ。」
ローレンツが机越しに顔を上げ、穏やかな笑みを浮かべた。
「久しぶりだな、ローレンツ。今日は頼みがあって来た。」
サイラスがそう切り出すと、ローレンツは興味深げに眉を上げた。
「ほう。第二王子自ら訪れる用件とは?」
「瘴気の発生源調査だ。その名目で王宮地下の柱を調査する許可を得た。ただ、柱には高度な結界が張られていると聞く。専門的な知識が必要だ。」
「それで私に助言を頼みたい、ということですか。」
ローレンツが顎に手を当て、目を細めた。
「助言だけじゃない。君の知識を活かして調査に同行してほしい。」
サイラスの言葉に、ローレンツはしばらく黙考し、小さく息を吐いた。
「分かりました。調査の重要性は十分に理解しています。同行させていただきましょう。」
「助かる。ありがとう、ローレンツ。」
サイラスが感謝を述べると、ローレンツは軽く笑みを浮かべた。
「では、準備を整えましょう。王宮地下の結界は予想以上に厄介かもしれません。」