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元悪役令嬢、毒を以て毒を制する  作者: セピア色にゃんこ
第1章 悪役令嬢、家出する
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サイラスの告白

尖塔から戻ったリナとサイラスは、ヴィクトリアの書斎で報告を始めた。


「お祖母様、尖塔の封印の柱には重要な記述がありました。」


リナが静かに語り始めると、ヴィクトリアは興味深げに頷き、続きを促した。


「柱同士は共鳴しており、一つの柱の封印が緩むと他の柱にも影響を与える仕組みになっています。他の柱に異常が起きた際に知らせるためのものだと思います。」


ヴィクトリアは表情を引き締め、深く頷いた。


「その共鳴の仕組みは私も知っているわ。それが封印を維持するための最も重要な特性の一つだから。」


「でも、それだけじゃありません。」


リナは言葉を継ぎ、手にしていたメモを広げた。


「柱の石碑にはこう記されていました。『魔王を復活させるには四つの柱全ての封印を解く必要がある』と。」


ヴィクトリアは一瞬驚いたように目を見開き、その後、深く息をついた。


「四つ全ての封印……。昔、封印に関する記録が焼失してしまったことがあるの。それが今、こうして確認できたことは大きいわ。」


「はい。そして今の状況を考えると、誰かが既に柱の封印を解こうとしている可能性があります。」


リナの言葉に、ヴィクトリアは地図を広げ、柱の位置を指差した。


「柱の位置は4箇所。一つ目はあなたたちが行ってきた尖塔、二つ目はこの家の地下、三つ目はアルベルト家の敷地内。そして四つ目が王宮の地下にあると言われている。」


リナは静かに頷きながら、複雑な表情を浮かべていた。


「でも、私が王宮に行くことはできません。アルベルト家を追放された私が行けば、目立つだけです。」


ヴィクトリアは深く考え込むように目を伏せた。

その横で、サイラスが軽く息をつき、目を閉じたまま黙り込んだ。


「……何か方法があるのですか?」


リナが問いかけると、サイラスはゆっくりと目を開け、まっすぐに彼女を見つめた。

その瞳にはいつになく強い決意が宿っていた。


「リナ、君に話しておかなければならないことがある。」


「……何の話ですか?」


リナの声は、どこか緊張を帯びていた。


サイラスは一瞬視線を落とし、深く息を吸い込んだ後、低い声で語り始めた。


「僕は、グランディール王国の第二王子だ。」


その場に、静寂が訪れた。


「……王子?」


リナの声は驚きに震えていた。


「そうだ。君たちに話していなかったのは、僕の立場を知られることで無駄な壁を作りたくなかったからだ。」


サイラスは言葉を慎重に選びながら続けた。


「僕は王族の身でありながら、冒険者として自由に生きる道を選んでいた。だが今は、その立場を利用しなければならない時が来た。」


リナは何か言おうとしたが、言葉が見つからず、ただサイラスを見つめていた。


「柱の封印が崩れれば、ルミナスも、グランディールも、全てが滅びる可能性がある。君を王宮に連れて行くために、僕は第二王子としてルミナス王国への謁見を申し込む。」


「……そんなことが本当に可能なんですか?」


リナの声には、まだ疑念が残っていた。


「可能かどうかではない。やらなければならない。」


サイラスの声は力強かった。


「君はアルベルト家を追放された身だが、君の力はこの状況を打破するために不可欠だ。リナ、僕が君を守る。どんな状況でも、君を危険に晒したりはしない。」


リナはその言葉を受け、しばらくサイラスの真剣な眼差しを見つめていた。

そして、胸の奥にじんわりと温かい感情が広がるのを感じた。


「……わかりました。」


リナはゆっくりと頷いた。


「私も協力します。」


その言葉を聞いたサイラスの表情が、わずかに柔らかくなった。


「ありがとう。」


静かな声でそう言った彼の微笑みは、どこか安心したような色を帯びていた。



それから数日間、リナとサイラスはヴィクトリアの屋敷で準備を進めていた。


「まずは、あなたの闇魔法の基礎をもう一度固める必要があるわ。」


ヴィクトリアは書斎の奥から古びた魔法書を取り出し、リナに差し出した。


「この魔法は柱の封印に干渉するために特化している。アルベルト家の一族でなければ使えない術式よ。」


リナは戸惑いながらも本を受け取り、古代文字で書かれた複雑な術式に目を通した。


「……できるかどうか、自信がありません。」


リナの不安げな声に、ヴィクトリアは厳しくも優しい表情で答えた。


「あなたにはその力があるわ。だから、私がここにいるのよ。」


その言葉に背中を押されるように、リナは小さく息を吸い込み、決意を込めて頷いた。


「わかりました。やってみます。」



一方で、別の部屋ではサイラスがグランディール王国への手紙をしたためていた。

ルミナス王国への謁見を取り付けるために、正当な手続きを進める必要があった。


書簡を封じた後、サイラスはヴィクトリアに話しかけた。


「ヴィクトリア様、お願いがあります。」


「何かしら?」


彼女は手を止め、サイラスを見つめる。


「冒険者仲間のカイエンとミリアをここに呼び寄せたいのです。彼らの力があれば、王宮地下の柱を調査する際に役立つと思います。」


ヴィクトリアはしばらく考え込む素振りを見せた後、小さく頷いた。


「その二人が信頼に足る存在なら、構わないわ。この家は準備が整っているから、心配しないで。」


サイラスは感謝の意を込めて頭を下げた。


「ありがとうございます。」



数日後、カイエンとミリアがヴィクトリアの屋敷に到着した。

屋敷の玄関で再会を果たしたリナとミリアは、互いに満面の笑みを浮かべた。


「リナ! 無事だったのね! ずいぶん長いこと連絡がなかったから、心配してたのよ!」


ミリアは大げさに手を広げ、リナを歓迎する。

リナは少し照れながら微笑み、軽く頭を下げた。


「すみません、お祖母様の屋敷で教えを受けていました。でも、おかげで新しい知識を得ることができました。」


ミリアはリナをじっと見つめた後、にこりと微笑んだ。


「確かに少し頼もしくなったみたいね。それで、何か新しい発見はあったの?」


リナが答えようとしたその時、カイエンが声を上げた。


「おいおい、話が進んでるのはいいけど、俺たちにも状況を教えてくれよ。」


その言葉に場の雰囲気が和らぎ、一同は書斎に集まり、サイラスの計画を聞くことになった。



書斎の机の上には、ルミナス王国への正式な訪問許可を求める手続きを記した書類が広げられていた。

カイエンがその計画を一瞥し、少し驚いた表情を浮かべた。


「お前、本当にそれでいいのか? 身分を明かせば、いろいろと面倒なことが増えるぞ。」


サイラスは小さく笑いながらも、真剣な眼差しを向けた。


「構わない。今の状況を放置すれば、この国も俺の故郷も危険にさらされる。だからこそ、今は動くべきだと思ってる。」


その言葉に、カイエンは短く頷き、手続きを進めることを約束した。



数日後、サイラスは王国から届いた書簡を開いた。

書簡の中身を確認したサイラスの瞳が、わずかに光を帯びる。


そこには、彼が申請していた王家への謁見が正式に承認されたことが記されていた。


「これで王宮に行けるな……。」


サイラスは小さく息を吐き、書簡を畳んだ。

その手には、わずかな緊張と共に、使命感が滲んでいた。


リナ、ミリア、カイエンとともに計画を再確認し、次の行動へと備えるため、一同はそれぞれの役割に集中していく。

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