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元悪役令嬢、毒を以て毒を制する  作者: セピア色にゃんこ
第1章 悪役令嬢、家出する
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天高き尖塔へ

リナとサイラスの旅路は、アルベルト家の領地を出た時点から険しさを増していた。


馬車が入れない山道では、徒歩で進むしかなく、荷物を背負った二人の足取りは徐々に重くなっていく。それでも二人は決意を胸に、一歩ずつ前に進んでいた。


道中、リナはヴィクトリアから託されたペンダントを手のひらで転がしながら、ふと思ったことを口にした。


「サイラス、このペンダント……どれくらいの力があるんでしょうか?」


「実際に使ってみないと分からないが、お前が持っているだけで少し安心だよ。リナの力を安定させるって言ってたからな。」


サイラスが振り返り、リナに柔らかく微笑む。それに応えるように、リナも小さく笑みを浮かべた。


「そうですね。まだまだ私には制御できない部分が多いですけど……でも、きっと大丈夫だって信じてます。」


二人の後ろを軽やかに歩いていたカイが、突然ピタリと動きを止めた。そして、周囲の空気を鋭く嗅ぎ取るように鼻をヒクヒクさせる。


「どうした、カイ?」


サイラスが警戒しながら剣の柄に手をかけると、カイは小さく「ニャー」と鳴き、草むらの中をじっと見つめた。その視線の先から低い唸り声が聞こえてくる。


「魔獣……!」


リナが息を呑むと同時に、草むらから現れたのは黒い毛並みを持つ狼のような魔獣だった。その目は真紅に輝き、瘴気を纏っている。


「リナ、下がれ!カイ、リナを守れ!」


サイラスが声を張り上げ、剣を引き抜く。その瞬間、魔獣が地を蹴り、鋭い牙をむき出しにして突進してきた。


サイラスはそれを冷静に見極め、素早く剣を振るって魔獣の攻撃を受け止めた。しかし、その体勢から放たれる瘴気に、徐々に空気が重くなっていく。


「サイラス!毒霧が広がっています!」


リナはすぐに調合していた解毒剤を取り出し、サイラスに投げ渡した。しかし、魔獣はリナが動くのを見逃さず、再び鋭い視線を彼女に向ける。


「くそっ、リナに手を出すな!」


サイラスが叫びながら魔獣を引きつけるように前に出る。しかし、リナもただ黙って見ているわけにはいかなかった。


(今の私にできること……!)


リナは深呼吸をし、ヴィクトリアから教えられた新しい魔法の感覚を思い出す。


ペンダントを握りしめると、闇魔法の力がゆっくりと彼女の体に集まり始めた。


「……闇よ、瘴気を飲み込み、静寂を与えよ!」


彼女が唱えたその言葉と共に、ペンダントから放たれる黒い光が魔獣の瘴気を包み込むように広がった。その光は瘴気を中和し、周囲の空気を浄化していく。


「リナ、すごいじゃないか!」


サイラスが魔獣を追い詰めながらリナの活躍に驚く。しかし、魔獣は最後の力を振り絞ってサイラスに向かって跳躍した。


「これで終わりだ!」


サイラスが叫びながら剣を振り下ろす。鋭い一撃が魔獣の胴体を貫き、絶命させた。



二人はしばらくその場で息を整えた。カイがリナの肩に飛び乗り、何事もなかったかのように喉を鳴らす。


「リナ、お前の魔法、本当に助かったよ。あれがなければ、俺たちはもっと消耗してたかもしれない。」


サイラスがリナの肩を軽く叩きながら笑うと、リナは少し照れくさそうに微笑んだ。


「いえ、まだまだです。もっと上手に使えるようにならないと……でも、少し自信がつきました。」


「それでいいさ。一歩ずつ進めばいいんだ。」


二人は再び歩き始めた。山道の向こうには、次なる目的地である「天高き尖塔」の影が薄っすらと見え始めていた。そこにはどんな試練が待ち受けているのか――その思いを胸に抱きながら、二人と一匹は旅を続けていく。



山道を抜けてようやく平坦な道に差し掛かると、遠くにそびえる「天高き尖塔」の全貌が見えてきた。


尖塔は灰色の岩肌に包まれ、その周囲には鬱蒼と茂る木々が奇妙な形にねじれている。辺りには不気味な静けさが漂い、鳥の鳴き声一つ聞こえない。


リナは足を止めてその景色を見上げ、息を飲んだ。


「……あそこが、封印の柱の一つなんですね。」


「そうだ。ヴィクトリアさんの話によれば、この尖塔には封印を支える重要な仕組みが隠されているらしい。ただ、魔獣が集まってきている可能性もある。気を引き締めていこう。」


サイラスが剣の柄に手を添えながら周囲を警戒する。


カイもリナの肩の上で立ち上がり、小さな唸り声を上げた。


「カイも何か感じているみたいですね。慎重に進みましょう。」


リナは肩に乗るカイを撫でながら、サイラスの隣を歩き出した。



尖塔に近づくにつれて、周囲の空気がじっとりと湿り気を帯びてきた。


腐葉土の匂いに混じって、どこか生臭いような異臭が漂っている。


「瘴気が少しずつ濃くなってきている……。気をつけて。」


リナがそう呟くと、カイが鋭い鳴き声を上げた。その瞬間、茂みの中から複数の赤い瞳が現れた。


「出てきやがったか!」


サイラスが剣を抜くと同時に、獣型の魔獣たちが次々と飛び出してきた。獰猛な牙をむき出しにしながら、彼らを取り囲むように動き回る。


「リナ、俺が前衛を引き受ける。お前は後ろからサポートを頼む!」


「分かりました!」


リナは即座にポーションの瓶を取り出し、カイを肩から下ろして準備に取り掛かる。


彼女は敵の動きを注視しながら、魔獣たちに対応するための解毒剤を調合していた。


サイラスは剣を振るい、一体の魔獣を地面に叩き伏せた。


だが、次々と新たな魔獣が現れ、その数は減るどころか増え続けている。


「こんなに多いなんて……!」


リナは心臓が高鳴るのを感じながらも、冷静さを保つよう自分に言い聞かせた。


彼女はペンダントを握りしめ、闇魔法を使う準備を始める。


(恐れている場合じゃない。私にできることを、全力で……!)


「闇よ、我らを守り、道を開け!」


リナが声を上げると、ペンダントから黒い光が広がり、地面に影のような結界を張った


。その影が魔獣たちの動きを鈍らせ、サイラスが攻撃を仕掛ける隙を作り出す。


「やるじゃないか、リナ!そいつらを片付ける!」


サイラスはリナの作った隙を見逃さず、素早く魔獣を仕留めていく。一方でリナも、結界の維持とサポート魔法を続けていた。



激しい戦いの末、ようやく魔獣たちの動きが止まり、周囲に静けさが戻った。


リナは膝に手をついて深呼吸をし、サイラスは剣を肩に担ぎながら彼女の方を見た。


「よくやったな、リナ。お前の魔法がなかったら、もっと手こずってた。」


「いえ、サイラスが頑張ってくれたおかげです。」


リナが微笑みながら答えると、カイが彼女の足元に擦り寄り、安心したように喉を鳴らした。


「さて、この尖塔の中に何があるかだな。」


サイラスは尖塔の入り口に向かい、重い扉を押し開けた。


その中からは冷たい空気が流れ出し、奥へと続く暗い階段が見えた。


「進むぞ、リナ。ここからが本番だ。」


「はい!」


リナは緊張と期待を胸に抱きながら、サイラスと共に暗闇の中へと足を踏み入れた。


尖塔の奥深くには、魔王の封印と関わる秘密が隠されているはず――その真実を求めて、二人は先へ進んでいった。

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