封印の柱
リナは古びた書物をそっと開いた。
中には複雑な文様と古代語で記された文献がぎっしりと詰まっている。
それを一目見ただけで、リナは息を飲んだ。
「……これ、私に読めるでしょうか。」
不安げな声で呟くと、ヴィクトリアが背後からリナの肩に手を置いた。
「焦る必要はないわ。大切なのは、ここに書かれていることを少しずつ理解し、自分の力に変えることよ。私も手伝うわ。」
その言葉に、リナの心は少し軽くなった。
彼女は小さく頷き、ゆっくりと書物を読み進める。
「この記述……『封印の柱は大地と共にあり、四つの結界が力を均衡させる』……?」
リナがその一節を読み上げると、ヴィクトリアは目を細めた。
「『四つの結界』……やはりね。この地がその一つである可能性は高いわ。」
サイラスがその言葉を聞いて腕を組んだ。
「結界が瘴気や魔獣の暴走を抑えているとしたら、その結界が何らかの理由で弱まっているのかもしれないな。」
「でも、どうして今になって封印が緩み始めたのでしょうか?」
リナの疑問に、ヴィクトリアは少し間を置いてから静かに答えた。
「それが、私にも分からないの。封印を維持する力が時と共に弱まったのか、それとも誰かが意図的に封印に干渉したのか……。ただ一つ言えるのは、封印が完全に解かれれば、魔王が復活する危険があるということ。」
「封印が解けてしまったら……。」
リナは思わず拳を握りしめた。
その可能性が頭をよぎるたびに、自分がもっと早くこの問題に気づいていればと思わずにはいられない。
「リナ、責任を感じる必要はないわ。」
ヴィクトリアがリナの考えを見透かしたように言葉を続ける。
「アルベルト家の血を引いている者として、力を貸すのは当然のこと。でも、すべてを一人で背負おうとしないで。あなただけでなく、サイラスたち仲間もいるでしょう?」
リナはその言葉に深く頷いた。
サイラスもまた、彼女の肩に手を置いて優しく笑みを浮かべる。
「そうだ。お前は一人じゃない。俺たちは一緒だ。」
その瞬間、リナの中に湧き上がっていた不安が少しずつ和らいでいくのを感じた。
◇
その夜、影の間から見つかった書物を元に、リナたちは情報を整理し始めた。
結界を構成する四つの結界は柱のような形状で「四つの柱」と記述されている書物もあった。
そしてその位置が薄っすらと判明しつつあった。
ヴィクトリアの屋敷の地下がその一つであると同時に、他の三つの柱がどこにあるのかも書かれていた。
「次に向かうべきはここね。」
リナが地図を広げながら指差したのは、アルベルト家の領地から離れた山岳地帯だった。
「『天高き尖塔』……そこが次の結界の柱の場所かもしれないわ。」
「険しい道になりそうだな。」
サイラスが地図を見ながら苦笑する。
「でも、行くしかないわよね。瘴気や魔獣の被害を食い止めるためには。」
リナの決意に、サイラスは真剣な表情で頷いた。
◇
翌朝、リナとサイラスは旅の準備を整え、ヴィクトリアの屋敷を後にすることにした。
ヴィクトリアは彼らを玄関まで見送りに出てきた。
「リナ、これは持って行きなさい。」
ヴィクトリアが手渡したのは、小さな黒い石が埋め込まれたペンダントだった。
「これは?」
「闇魔法の力を強化し、同時に制御するための道具よ。使いこなせれば、あなたの力はもっと安定するはず。」
「ありがとうございます、お祖母様。大切に使います。」
リナはそのペンダントをしっかりと握りしめた。そして、ヴィクトリアに深く頭を下げる。
「気をつけて行きなさい。何かあれば、またここに戻ってきなさい。私も、できる限りのことをするつもりよ。」
「はい。」
サイラスも一礼し、二人はヴィクトリアの屋敷を後にした。
旅の道中、リナはペンダントを見つめながら決意を新たにしていた。