祖母からの忠告
リナは祖母の屋敷で客間に案内された後、軽い身支度を整えた。
けれども、心はざわついたままだった。
杖をつく祖母の姿、静かに広がる闇魔法の気配、そして、この土地に漂う瘴気の異常さ。
それらすべてが、リナに重たい疑問を投げかけていた。
(もしかして……私が闇魔法を使うことで、魔獣が増えたり瘴気が噴き出したりしているの?)
リナは胸の奥がぎゅっと締めつけられるのを感じた。
瘴気ダンジョンの攻略で闇魔法を初めて使ったとき、効果があったとはいえ、その力が何か悪影響を及ぼしているのではないか。
そう考えると、不安は増すばかりだった。
(でも……父も姉も、ずっと闇魔法を使っているはずなのに、どうして今なの?)
このタイミングで被害が急激に広がった理由が分からない。
アルベルト家が闇の力を代々継承してきたのは事実だが、その力が直接的に問題を引き起こしたことは過去にはほとんどなかった。
それが今、この地で異変を引き起こしている理由が何なのか、リナには掴めなかった。
◇
リナは祖母ヴィクトリアと共に広間の大きなテーブルに座り、話を始めた。
サイラスは廊下の外で静かに待つと言い、席を外していた。
ヴィクトリアはリナをじっと見つめながら、静かに口を開いた。
「リナ、あなたがここに来た理由は分かっているわ。闇魔法と瘴気の関係、そして魔獣の増加……そのすべてに答えがあるかもしれない。」
リナは緊張しながら頷いた。
その眼差しは真剣そのものだ。
「お祖母様……私の闇魔法が、この土地に何か悪い影響を与えているのではないかと心配なんです。瘴気や魔獣の被害が増えたのは、私が闇魔法を使ったせいなんじゃないかって……。」
ヴィクトリアは目を細め、しばらくの間考えるように沈黙した。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「リナ、あなたが闇魔法を使ったこと自体が直接の原因とは思えないわ。確かに闇魔法は強力で、時には自然界に影響を及ぼすこともある。でも、それはあくまで制御できていない場合の話よ。」
リナは少しだけほっとした表情を浮かべたが、それでも不安は消えなかった。
「でも……どうして今、こんなにも被害が広がっているんでしょうか?お父様やセレーナ姉さんも闇魔法を使っていますよね。それなのに、どうしてこのタイミングなんですか?」
その問いに、ヴィクトリアの表情が一瞬だけ険しくなった。
そして、彼女は深い溜息をついて答えた。
「それには理由があるのよ。まず、この土地……アルベルト領は、ただの領地ではない。魔王の封印にとって重要な拠点なの。」
「魔王の……封印?」
リナは驚いた表情を浮かべた。
「ええ。アルベルト家は代々、この封印を守る役割を担ってきた。そして、その力が保たれるよう、闇魔法を使いながら土地を維持してきたの。あなたの父、レオンもその一人。」
「では……瘴気や魔獣の異常は?」
ヴィクトリアは深く頷きながら、続けた。
「誰かが封印を破り、魔王を復活させようとしているのよ。その影響で土地が不安定になり、瘴気が噴き出し、魔獣が暴れている。」
リナは目を見開き、手を胸元に置いた。
「そんな……誰がそんなことを?」
「まだ確かなことは分からないわ。でも、あなたのお父様、レオンからの手紙には、魔王復活を目論む動きが各地で報告されていると記されていた。」
「お父様からの手紙……?」
「そうよ。彼は封印の維持を最優先にしているけれど、こうした異変が起きている以上、あなたもその渦中に巻き込まれることになるでしょう。彼は、あなたが力を正しく使えるよう祈っているわ。」
ヴィクトリアの言葉に、リナの心は揺れた。
父からの期待と責任が重くのしかかるように感じたが、それ以上に彼女の中で強い決意が湧き上がった。
「私……もっと力をつけて、この状況を変えたいです。この土地やみんなを守るために!」
その言葉に、ヴィクトリアは小さく頷き、少しだけ柔らかな笑みを浮かべた。
「その覚悟があるのなら、私の知識を貸してあげる。ただし、闇魔法は光と違って、力を使えば必ず代償が伴う。それを忘れないことよ。」
リナはその言葉を胸に刻み、深く頷いた。
◇
その後、サイラスが部屋に戻り、ヴィクトリアと挨拶を交わした。
彼女はサイラスをじっと見つめ、静かに微笑む。
「あなたがリナの仲間ね。話はレオンから聞いているわ。彼女を支えてくれてありがとう。」
「彼女にはこちらが助けられてばかりですから。これからも見守るつもりです。」
サイラスの言葉にヴィクトリアは満足そうに頷いた。
「リナが自分の道を見つけられるように、彼女の支えになってあげてちょうだい。……この地で何が起ころうとしているのか、あなたたちと共に考える必要がありそうね。」
サイラスとリナは視線を交わし、新たな試練に立ち向かう覚悟を固めた。
闇魔法、瘴気、そして魔王復活の影――すべてを解き明かすための旅は、まだ始まったばかりだった。




