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元悪役令嬢、毒を以て毒を制する  作者: セピア色にゃんこ
第1章 悪役令嬢、家出する
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旅に出る

ギルドのカフェでリナは窓越しに外の景色をぼんやりと眺めていた。


カップから立ち上るハーブティーの香りが、心を落ち着かせてくれる。


しかし、彼女の表情はどこか曇っている。


「リナ、何をそんなに考え込んでるんだ?」


向かいに座るサイラスが声をかけた。


彼はカップを軽く傾けながら、いつもの穏やかな表情でリナを見つめている。


「……今のままで、私が本当にみんなの力になれているのかな、って。」


リナはカップを両手で包みながら、ぽつりと呟いた。


瘴気ダンジョンでのミッションを終えた後、パーティ全員に大きな怪我はなかったものの、あの場面で感じた自分の力不足が頭から離れなかった。


「何を言ってるんだ?お前のおかげで、俺たちはあのダンジョンを攻略できたんだぞ。解毒魔法もそうだし、冷静な判断がなければ全滅してたかもしれないんだ。」


サイラスの言葉は真っ直ぐだった。


それでも、リナは顔を少し曇らせる。


「ありがとうございます。でも……もっとできたはずなんです。魔獣の暴走や瘴気の発生、その原因をもっと深く知れば、もっと早く的確に対応できたかもしれない。私、今のままじゃダメなんです。」


真剣な瞳でそう言うリナに、サイラスは少し考えるようにしてから、柔らかく微笑んだ。


「なら、調べるところから始めればいい。お前がそう思うなら、俺も付き合うさ。」


「本当に?」


リナの瞳が驚きと感謝で潤む。


サイラスは肩をすくめるように笑いながら答えた。


「当然だろ?俺たちは仲間だからな。それに、休養期間をただぼーっと過ごすのも退屈だしな。」


リナはその言葉に心が軽くなるのを感じた。


彼女は意を決してサイラスに告げる。


「私、アルベルト家の領地に行きたいんです。そこに、瘴気や魔獣について詳しい人がいます。私の……祖母です。」


「祖母、ね。」


サイラスは少しだけ眉を上げたが、それ以上は何も言わなかった。


そして、短く頷いた。


「分かった。準備をして行こう。」



リナとサイラスは旅支度を整えると、乗り合い馬車に乗ってギルドを後にした。


リナは肩にかけた小さな鞄に必要な調合器具や薬草を詰め込み、サイラスは旅用の軽装を身にまとっている。


カイはリナの膝の上で丸くなりながら、小さな寝息を立てていた。


「アルベルト家の領地か……リナ、お前がそこに行くのは久しぶりなんだろ?」


サイラスが窓の外を見ながら尋ねると、リナは少し遠い目をして頷いた。


「はい。子どもの頃に一度だけ行ったことがあります。でも、祖母に会うのはそれ以来ですから、どんな顔をされるか少し怖いです。」


「怖い?それはどうしてだ?」


「お祖母様はとても厳しい方ですから……。父や姉のように強い闇魔法の使い手じゃない私に、失望しているんじゃないかと思って……。」


リナの声は徐々に小さくなり、肩が少し落ちた。


サイラスはそんな彼女の様子をじっと見つめた後、軽く頭を振った。


「そんなこと、気にするな。お前が自分の力を認めていないだけで、俺から見れば十分すぎるほど頼れるやつだ。それに、お祖母さんもお前を理解してくれるはずだ。」


その言葉に、リナは少しだけ顔を上げて微笑んだ。


「そうだといいんですけど……。」



馬車は揺れながら街道を進み、宿場町で何度か乗り換えを行った。


風景は次第に人里離れた田舎へと変わり、やがて枯れた草木が目立つようになってきた。


「瘴気の影響がこんなところにまで及んでいるんですね……。」


リナが窓から外を見つめながら呟く。


空気は冷たく、どこか重苦しい雰囲気が漂っていた。


サイラスも同じように窓の外を見ながら頷いた。


「これが放置されれば、さらに被害が広がるだろうな。今回の旅は、それを防ぐ手がかりを見つけるのが目的だ。」


「はい……。祖母が何か知っているといいんですけど。」



馬車を降りた二人は、アルベルト家の領地へと続く道を歩き始めた。


カイは軽やかにリナの肩に飛び乗り、リナは軽く笑いながらその背中を撫でる。


「本当にカイはどこでも適応するわね。」


「お前がそばにいるから安心なんだろうさ。」


サイラスが冗談混じりに言うと、リナは頬を赤らめながら笑った。


「そうだと嬉しいんですけど。」


森を抜けると、重厚な石造りの屋敷が姿を現した。


長い歴史を感じさせるその佇まいに、サイラスは思わず口笛を吹いた。


「これが、お前の祖母の住む屋敷か……。さすがに迫力があるな。」


リナは少し緊張した面持ちで扉の前に立つ。


重い扉をノックすると、中から老召使いが静かに扉を開けた。


「おや、ルナフィーネ様。お帰りなさいませ。」


「お久しぶりです。お祖母様にお会いできますか?」


「はい。奥でお待ちしております。どうぞお入りください。」



廊下には古い絵画や装飾が並び、どれも長い歴史を物語っている。


奥の部屋から杖をつく音が聞こえ、白髪のヴィクトリアが姿を現した。


「久しぶりね、ルナフィーネ。今はリナと名乗っているのだったかしら?」


「お久しぶりです、お祖母様。」


「それで、私のところに来たということは……話があるのでしょう?」


「はい。魔獣の暴走や瘴気について、闇魔法との関係を知りたいんです。」


ヴィクトリアはリナをじっと見つめ、やがて柔らかい微笑みを浮かべた。


「いいわ。私に分かることを教えてあげる。ただし、それ相応の覚悟が必要よ。」


リナはその言葉に力強く頷いた。


サイラスは彼女を見守りながら、黙ってその決意を支える覚悟を決めていた。

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