ダンジョンからの帰路で
瘴気ダンジョンの攻略を終え、夕日が地平線を染める山道を下りながら、リナたちは達成感と疲労を胸に帰路を進んでいた。
霧毒に満ちた環境での戦いは過酷を極めたが、全員無事に生還できたことに、リナは心からほっと胸を撫で下ろしていた。
「リナの解毒魔法、本当にすごかったわ。どうやってあんなことを思いついたの?」
ミリアがリナに歩み寄り、優しい笑みを浮かべながら話しかける。
「私自身も驚いています。毒を中和するために調合してきた技術が、こんな形で魔法に応用できるなんて……思ってもみませんでした。」
リナはまだ実感が湧かない様子で、少し恥ずかしそうに笑った。
「もっと自信を持てよ。あの魔法がなかったら、俺たちは全滅してたかもしれないんだからな。」
カイエンが彼女の横を歩きながら、不器用な声で続けた。
リナは驚いたように彼を見つめた後、軽く頭を下げた。
「ありがとうございます。でも……まだまだ課題がたくさんあります。もっと効率的に動ける方法を考えないと……。」
彼女の謙虚な言葉に、サイラスが歩みを止めて彼女の隣に並んだ。
真剣な眼差しでリナを見つめる。
「リナ、君は自分を過小評価しすぎだ。今回の成果をしっかり認めろ。それに……俺たちはリナと一緒にもっと強くなりたいと思ってるんだ。」
その言葉にリナの胸がじんわりと温かくなり、彼女の目にはほんのりと涙が浮かんだ。それでも笑顔で応える。
「……ありがとうございます。私も、もっと頑張ります。」
◇
ギルドに戻ると、リナたちを迎えた冒険者たちの間から歓声が上がった。
瘴気と霧毒が充満する未踏のダンジョンを攻略したというニュースはすでに広まり、彼らの偉業が称賛されていた。
「『暁の翼』がまたやってくれたぞ! あの危険なダンジョンをクリアしたなんて信じられない!」
「リナさんの解毒魔法もすごかったらしい。毒に関しては彼女に頼るしかないな!」
冒険者たちの称賛の声が飛び交う中、リナは恥ずかしそうに顔を伏せながらも、その場に立っていた。
自分がこれほど多くの人々に認められる日が来るとは、かつて想像もしていなかった。
ギルドマスターがサイラスたちに報酬袋を手渡し、その中から一つをリナに差し出す。
「リナ、君の力はギルド全体を支えている。これからもよろしく頼む。」
その言葉にリナは目を見開き、慌てて手を振った。
「い、いいんですか?私はただサポートしていただけなのに……。」
「だからこそだ。サポートがなければ戦えないのが俺たちだ。これはお前の力の証だよ。」
サイラスが隣で微笑みながら首を振る。
リナは静かにその袋を受け取り、深く頭を下げた。
「ありがとうございます……これからも、全力を尽くします。」
◇
その夜、リナは薬屋で調合に関する資料を広げながら思案していた。
瘴気ダンジョンでの経験を経て、彼女は自らの解毒魔法の可能性をさらに追求しようと考えていた。
(魔法を応用して、もっと幅広い状態異常に対応できる手段を作れないだろうか……。)
リナの頭には、新たなダンジョンや危険なミッションに挑むイメージが浮かんでいた。
彼女の力は、仲間だけでなく多くの人々を救う可能性を秘めている。
サイラスたちとの絆、そしてギルド全体からの信頼を感じながら、リナは新たな一歩を踏み出す決意を固めていた。
◇
一方その頃、王宮の地下ではレイナが儀式の準備を進めていた。
「瘴気の柱が弱まっている今がチャンス……。もう少しで封印が解ける……!」
彼女の瞳には焦りと狂気が宿り、その手には不気味に輝く魔石が握られていた。
「光と闇の力を融合させることで、全てを手に入れる……聖女の地位も、王子の心も……!」
儀式が進むにつれ、地下から立ち上る瘴気が徐々に王宮全体に影響を与え始めていた。
その陰謀が、リナたちに新たな試練をもたらそうとしていた――。