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元悪役令嬢、毒を以て毒を制する  作者: セピア色にゃんこ
第1章 悪役令嬢、家出する
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難関ダンジョンとリナの提案

夕暮れ時のギルドは、冒険者たちの活気に包まれていた。

サイラスが一枚の依頼書を差し出してきた。


「リナ、この依頼を見てくれ。俺たちのパーティで挑むことになりそうだ。」


リナが受け取った依頼書には、「瘴気の巣窟」と呼ばれる危険なダンジョンの詳細が記されていた。

周囲の土地から毒性の高い瘴気が常に噴き出しており、挑戦する冒険者の多くが体調を崩して引き返すという難関だ。


「瘴気が漂う場所……これは厄介ですね。」


リナは依頼書に目を落としながら呟いた。


「そうなんだ。瘴気は体力を奪うだけじゃなく、魔力をも弱らせる。Aクラスの冒険者でも長時間の探索は難しいと聞いている。」


サイラスの言葉に、隣にいたミリアとカイエンも黙り込んだ。

瘴気に対する有効な対策がない限り、どんな強い冒険者でも無事に攻略するのは至難の業だった。


「それなら……マスクを使うのはどうでしょう?」


リナの提案に、三人の視線が彼女に集中した。


「マスク?」


「はい。毒薬を霧や煙状に加工することがあるんですけど、そのとき、自分が毒を吸い込まないようにマスクをつけて作業するんです。瘴気も同じように防げるかもしれません。」


リナの提案は至極当然のように聞こえたが、冒険者たちにとっては新鮮な発想だった。

この世界では、毒や瘴気への対策は専ら解毒剤や回復ポーションに頼るもので、予防という概念があまり浸透していなかったのだ。


「なるほど、それは良いアイデアだ。でも、そんなマスク、この街で見たことないぞ?」


カイエンが腕を組みながら疑問を口にした。


「街にはないかもしれません。でも……構造は理解しています。こういう形で作れば、瘴気をある程度防げるはずです。」


リナは紙とペンを手に取り、簡単なスケッチを描き始めた。

鼻と口を覆う布部分と、その中に毒素を吸収するフィルターを挟み込む仕組み。

リナの説明は簡潔でわかりやすく、毒の扱いに長けた彼女ならではのアイデアだった。


ミリアがスケッチを覗き込み、目を輝かせながら言った。


「これ、魔道具師なら作れるかもしれないわ!知り合いがいるから相談してみる!」


「それは良い案だな。」


サイラスが頷きながらリナのスケッチを見つめた。


「リナの知識と魔道具の技術を合わせれば、瘴気対策ができるかもしれない。」


リナは少し照れたように微笑みながら答えた。


「お役に立てるかわかりませんが、もしこの案が使えるなら……ぜひ試してみてください。」


---


翌日、ミリアとリナは街の一角にある魔道具工房を訪れた。

そこには、ミリアの知り合いであるエイドという中年の魔道具師がいた。


「ミリア、この子が例の冒険者か?」


「そうよ。彼女の提案で瘴気対策用のマスクを作りたいの。」


エイドはリナのスケッチを受け取り、じっくりと目を通した。


「なるほど、これは面白いな。フィルターの素材が問題だが……毒を吸収する薬草を加工すればいけそうだ。」


リナはエイドの言葉に頷きながら答えた。


「瘴気を吸収するには特定の薬草が必要です。この街で手に入る素材をいくつかリストアップしました。それを使えば試作品を作れると思います。」


「よし、それならやってみよう。試作品が完成したら試してみてくれ。」


エイドの協力を得て、マスクの製作が始まった。

リナは薬草の選定や毒の性質についてアドバイスを行い、エイドはそれを基に魔道具としての設計を進めた。


数日後、試作品のマスクが完成した。

エイドは誇らしげにその完成品を手に取り、リナたちに見せた。


「できたぞ。これはフィルターにリナの提案した薬草を使った試作品だ。瘴気を吸収しつつ呼吸を妨げないように調整してある。」


リナはそのマスクを手に取り、慎重に観察した。

エイドの技術の高さに感心しながらも、その完成度に満足感を覚えた。


「ありがとうございます!これならきっと役に立つはずです。」


ミリアが試しにマスクをつけてみて、驚いた声を上げた。


「軽いし、装着感も悪くないわ。これなら動きに支障も出なさそう!」


「いい感じだな。」


サイラスもマスクを手に取り、試作品をじっくりと確認した。


カイエンはフィルター部分を触りながら呟いた。


「これなら瘴気の中でも耐えられそうだ。リナ、いいアイデアだったな。」


「ありがとうございます。でも、これが本当に役立つかは、実際にダンジョンで試してみないと……」


リナは慎重な姿勢を崩さず、実地での成果を期待していた。


---


試作品を持ち帰り、パーティ全員が準備を整えた後、いよいよ瘴気のダンジョンへの挑戦が始まる。

リナの知識とエイドの技術が生んだ新たな装備は、彼らの命を守る鍵となるだろう。


「リナ、このマスクがあればきっと大丈夫だ。お前の力が頼りになる。」


サイラスの言葉に、リナは深く頷いた。

初めて自分の提案が形となり、仲間を守る道具になる。

そのことが、彼女に小さな自信を与えていた。


(私にできることをやるだけ。それが私の役割。)


瘴気という新たな敵に立ち向かうべく、リナと仲間たちはダンジョンの入口へと歩みを進めた。

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