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元悪役令嬢、毒を以て毒を制する  作者: セピア色にゃんこ
第1章 悪役令嬢、家出する
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新しい住まい、新しい未来

リナとして新たな人生を歩むことを決意した私。冒険者として少しずつ実績を積み、Dランクに昇格した今こそ、その決意を行動に移すときだと感じていた。


この街での生活にも慣れてきたけれど、いつまでもマティア婆さんの家に身を寄せているわけにはいかない。自分の力で新しい人生を築きたい――その思いが胸の中で日々大きくなっていった。


「リナ、家を探すんだったら、ギルドに相談してみたらどうだ?」


数日前、サイラスがそう助言してくれた。冒険者ギルドでは住まい探しをサポートしてくれる窓口があり、Dランクになったことで、保証人なしでも家を借りられる条件を満たしたのだ。


「ギルドの保証制度も使えるし、条件に合う場所がきっと見つかるさ。」


その言葉に背中を押され、私はついに新しい住まいを探すことを決意した。


ギルドの不動産窓口は、依頼掲示板の前の賑やかさとは違い、穏やかな空気が流れていた。木目調のカウンターと整然と並べられた物件リストが、どこか落ち着いた印象を与える。


「ここが不動産窓口だよ。行こう。」


サイラスが優しく声をかけ、私は少し緊張しながらカウンターに向かった。


「物件リストはこちらです。ご予算や希望の間取りなどがあれば、おっしゃってください。」


受付係が分厚いファイルを差し出してくれる。その中には、この街とその周辺地域の賃貸情報がびっしりと詰まっていた。


「リナ、どんな家がいいんだ?」


隣でサイラスが興味津々に覗き込んでくる。


「できるだけ家賃が安くて、1人で暮らせるくらいの広さがあれば十分よ。」


私は答えながら、ファイルをめくり始めた。見慣れない用語や条件が並ぶ中、一つひとつ確認するのは少し大変だったけれど、自分にとっては重要な第一歩だ。


「だったら、この辺りがいいんじゃないか?」


サイラスが指さしたのは、小さな一軒家。かなり安いし場所も悪くない。けれど、詳細を見てみると「トイレ共同」の文字が目に飛び込んできた。


「修繕が必要そうね。それにトイレが共同だと少し不便かな……。」


私は首を振り、次の候補を探した。


次に目に留まったのは、広々とした物件。新しくて快適そうだけれど、家賃が高すぎる。見ただけで私の予算が吹き飛ぶ。


「……広すぎるし、予算オーバーね。」


少し疲れたようにため息をつく私に、サイラスが別のページをめくりながら提案してきた。


「少し高いけど、ここはどうだ?」


彼が見せてくれたのは、2階建ての物件。1階は店舗スペース、2階は住居部分になっている。家賃は予算を少しオーバーしていたが、「1階を利用しない場合は割引可能」と備考欄に書かれていた。


「内見が可能ですが、いかがされますか?」



数日後、私はサイラスと共に内見のために街外れの物件へ向かった。


風に揺れる木々の葉音が静けさを際立たせ、街の中心部を離れるにつれ人通りが少なくなる。どこか落ち着いた雰囲気が漂っていた。


「ここだ。」


サイラスが立ち止まり、目の前の建物を指さす。少し古びた木造の店構えが現れ、軒先には年季の入った看板の跡がある。そこにはかつて「薬店」と書かれていたであろう文字がかすかに残っていた。


「薬屋……?」


私は思わず口に出してしまった。


「そうだよ。元々ここは薬屋だったんだ。」


案内役の大家さんが微笑みながら答える。親しみやすい雰囲気の女性で、古びた建物に対する愛情が感じられる。


「この地域には薬屋がなくてね。薬師さんが住んでくれると本当に助かるんだけどね。」


その言葉に胸がざわついた。薬師としての技術を活かす――その選択肢を考えたことがなかったわけではない。けれど、それを実行に移す覚悟ができていない自分がいた。


扉を開けると、ほのかな薬草の香りが漂ってきた。1階の店舗スペースに足を踏み入れると、薬棚が壁一面に広がっている。小さな引き出しが幾重にも並び、それぞれに古いラベルが貼られていた。


「ここ、すごくいいんじゃないか?お前が得意な薬作りにもピッタリだし、地域の人たちにも役立つだろう。」


サイラスの言葉に、私は再び店舗スペースを見渡した。この場所には確かに可能性がある。けれど、不安も同時に湧き上がる。


「……薬屋を再開するには時間がかかりそうですし、今はその準備ができるかどうか……。」


私が不安げに答えると、大家さんは優しい笑みを浮かべて言った。


「心配しなくていいよ。当面は2階だけの家賃でいい。その代わり、少しずつでもこの建物を大切にしてくれたら、それで十分さ。」


その言葉に、胸の奥で何かが響いた。この場所を託したい――そんな思いが大家さんの言葉から伝わってきたのだ。


2階に続く階段を上がると、コンパクトながら居心地の良さそうな空間が広がっていた。窓から柔らかな光が差し込み、白いカーテンがふわりと揺れている。


「どうだ?ここにするか?」


サイラスの問いかけに、私は静かに頷いた。この建物には、私がこれから歩むべき未来が詰まっている。冒険者としても、薬師としても。


「……ここにします。」


その言葉を口にした瞬間、不思議と心が軽くなった。


契約を済ませた帰り道、サイラスが笑顔で言った。


「よし!これでリナも立派な独り立ちだな!」


「ええ……これからが本番ね。」


私は新しい住まいでの生活を想像しながら、心に小さな決意を灯していた。

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