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元悪役令嬢、毒を以て毒を制する  作者: セピア色にゃんこ
第1章 悪役令嬢、家出する
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ギルドカフェでの出会い

ギルドカフェの扉を開けた瞬間、パンの焼ける香ばしい匂いが鼻をくすぐった。

木の温もりを感じる広々とした空間が広がり、そこには冒険者たちが思い思いに過ごす姿があった。


カップが触れ合う音、時折上がる笑い声、静かに話し合う声――そのすべてが、穏やかな昼下がりの空気を作り出している。


「ここがギルドのカフェだよ。」


サイラスが扉を押さえながら、私を中へと促す。


「……思ったよりずっと賑やかですね。」


私は周囲を見回しながら、軽くコートを抱え直した。


「ここは冒険者が依頼の合間に情報交換をしたり、軽食で休憩する場所なんだ。リラックスできるって評判なんだよ。」


彼が笑顔を浮かべ、窓際の席を指さす。その光景は柔らかな日差しに包まれ、どこかほっとする空間だった。


「今日はね、君に僕の仲間を紹介しようと思って。」


その言葉に、私は思わず手を止める。


「……仲間、ですか?」


「うん。ミリアとカイエンって言うんだ。君が作ってくれた解毒剤のおかげで助かった二人だよ。」


彼の言葉に、胸の奥で小さな緊張が広がる。知らない人と会うことは、まだ私にとって簡単なことではなかった。


「二人とも、君に直接お礼を言いたいってさ。」


サイラスは優しく笑いかけ、テーブルのメニューを手に取った。その仕草を眺めながら、私は少し気持ちを落ち着けようと深呼吸をする。



しばらくすると、カフェの扉が軽やかな音を立てた。


艶やかな黒髪を結んだ少女が、軽快な足取りで中に入ってくる。その後ろには、鋭い目つきの青年が続いていた。


「お待たせ!」


少女が元気な声を上げた瞬間、カフェの空気がぱっと明るくなる。


「サイラス、それに……こちらが私たちの命の恩人かな?」


青年は静かな視線を私に向け、軽く頭を下げた。


「ええ……初めまして、ルナフィーネ・アルベルトです。」


ぎこちなく名乗る私に、少女はぱっと目を輝かせて手を差し出してきた。


「私はミリア! 魔法使いよ。よろしくね、ルナフィーネさん!」


その明るい笑顔に、一瞬戸惑いながらも、私は彼女の手を握り返した。


「よ、よろしくお願いします……。」


一方、青年は短く眉を動かすと、すぐに柔らかな微笑みを浮かべて礼儀正しく名乗った。


「カイエンです。剣士をやっています。どうぞよろしく。」


その声には落ち着きがあり、どこか距離を保とうとする慎重な響きが感じられた。


テーブルには、ホットハーブティーや焼きたてのパンが次々と並べられた。

ミントとカモミールの香りが漂う飲み物を手に、私は少しずつ緊張を解いていった。


「これ、美味しいわね……。」


思わず口にした言葉に、ミリアがぱっと嬉しそうな顔をする。


「でしょ?ここのハーブティー、本当に人気なんだから!」


その明るい声に、私の心も少しずつ温まるようだった。


カイエンは控えめに微笑みながら、時折私に視線を向けていた。彼が私の名前を聞いたとき、一瞬だけ表情を変えたのを思い出す。


――アルベルト家のことを知っているのだろうか。


その疑問が頭をよぎったが、彼が何も言わない以上、私も触れることはできなかった。



「ねえ、ルナフィーネさん。」


ミリアが身を乗り出し、興味津々な表情で尋ねてくる。


「あなたって薬学が得意なんでしょ? 私も魔法学校で初歩的な薬学は学んだけど、今回の毒には全然効かなかったのよ。」


「その毒はおそらく、魔力を麻痺させる性質を持つものだったから、魔法だけでは対処が難しいと思います。」


「そうなの! それで解毒剤を使ったらみるみる良くなったんだから、本当にすごいわ。」


彼女の熱意に、私は思わず顔を赤らめた。


「でも、私なんてまだまだです。薬の調合も勉強中ですし……。」


「謙遜しないで! 今度、もっといろいろ教えてもらえないかな?」


突然の提案に驚きながらも、私は少しだけ頷いた。


「……私でよければ。」


「やった! じゃあ、今度一緒にダンジョンにも行こうね!」


その明るい笑顔に、私の中で何かが変わる感覚があった。

初めての仲間たち――そして、初めて感じる心の距離が縮まる瞬間。


「ありがとう……。」


私は小さく呟き、ホットハーブティーを一口含んだ。その温かさが胸の奥まで染み渡るようだった。


ミリアとカイエン

挿絵(By みてみん)

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