冒険者としての第一歩、銀葉草の採取
銀葉草を見つけた瞬間、私は小さく息をついた。
その葉は確かに銀色に輝き、薄い光沢を放っている。湿った地面に生えるその姿は、森の中で際立って見えた。
「おっ、やったね! それが銀葉草だよ。」
サイラスが後ろから声を上げる。
私はそっと葉を摘み取り、用意していた小さな布袋に丁寧に収めた。
「こんなに簡単に見つかるものなんですか?」
「まあ、この辺りは比較的取りやすい場所だからね。でも、もっと深いダンジョンだと、こんな簡単にはいかないんだよ。」
「ダンジョン……。」
私は彼の言葉に興味を引かれ、顔を上げた。
「サイラスさんがいつも行っているダンジョンは、どんな場所なんですか?」
彼は一瞬考える素振りを見せ、それから軽く笑った。
「そうだな……場所によって全然違うけど、共通して言えるのは、どこも危険がいっぱいってことかな。」
「危険、ですか?」
「うん。モンスターがいるのはもちろん、地形が迷路みたいだったり、毒の罠があったりね。でも、その分だけお宝や希少な素材が眠ってるんだ。」
「お宝……。」
彼の言葉に引き込まれるように、私は耳を傾けた。
冒険者にとってダンジョンは、命の危険を伴う挑戦の場であり、同時に新たな可能性を切り開く場所でもあるのだろう。
「そういえば、この銀葉草も、もっと希少な『金葉草』っていう上位素材があるんだよ。あれは確か、Aランク以上のダンジョンでしか見つからないんだ。」
「金葉草……。」
その名前は薬草学の書物で何度も目にしたものだ。
その薬効は非常に強力で、希少な解毒剤の材料にもなる。
「いつか見てみたい……。」
ぽつりと呟いた言葉に、サイラスが少し驚いたように顔を向けた。
「いいね! じゃあ、いつか一緒に探しに行こうか。」
「えっ?」
突然の提案に、私は目を丸くする。
「今すぐじゃなくていいよ。でも、ルナフィーネさんなら、きっと金葉草を見つけるのに向いてると思う。」
彼の軽い笑顔には、どこか本気が混じっているように感じられた。
「……考えておきます。」
私は目を伏せ、小さく頷いた。
森の出口に近づく頃、サイラスがふと立ち止まった。
「っと、そろそろ戻るか。」
「はい。」
銀葉草を収めた袋を大事に抱えながら、私は彼に続いて森を抜けた。
「今日はこれで登録も完了だし、初仕事もお疲れ様ってとこだな。」
彼は気楽な口調で言いながら、振り返って笑った。
「次はもっと難しい依頼に挑戦してみるといいよ。君ならきっと大丈夫だから。」
「……そう思いますか?」
「もちろん! 実際、さっきの採取だって冷静だったしね。」
その言葉に、私は少しだけ自信を取り戻したような気がした。
◇
ギルドへ戻ると、受付の職員が笑顔で迎えてくれた。
「お帰りなさい! 銀葉草の採取、お疲れ様でした。」
袋から銀葉草を取り出して見せると、職員は満足そうに頷いた。
「これで登録は完了ですね。おめでとうございます!」
渡されたのは、小さな金属製のプレートだった。
それは、冒険者としての第一歩を示す証だった。
プレートを手に取った瞬間、何とも言えない感情が胸に押し寄せた。
私が初めて自分の力で手にしたもの。それは、過去の私には考えられなかったことだった。
「これが冒険者の証……。」
「そう。これを持っていれば、君も立派な冒険者だよ。」
サイラスが笑顔で言った。
その言葉に、私は少しだけ微笑んだ。
ギルドの外に出ると、すっかり夕方になっていた。
空は赤く染まり、遠くで鳥の鳴き声が聞こえる。
「これからどうするの?」
サイラスが私に問いかけた。
私はプレートを手にしながら、ゆっくりと空を見上げた。
「……まだ分かりません。でも、やってみる価値はあると思います。」
「いいね。その気持ちがあれば、どんな依頼でもきっと乗り越えられるよ。」
彼の言葉に背中を押されるような気がした。
「ありがとう、サイラスさん。」
彼は軽く手を振って笑った。
「これからも一緒に頑張ろう。ギルドでまた会おうね。」
◇
家に戻る途中、私はプレートを胸に抱えながら歩いた。
これが、私の新しい人生の始まり。冒険者としての第一歩だ。
これからどんなことが待ち受けているのかは分からない。
それでも、少しずつ自分が変わっていく予感がしていた。
「これからが、本当の挑戦ね。」
カイが足元で静かに歩いている。彼もまた、私の心を見透かしているようだった。
私はそっと深呼吸をして、前を見据えた。
次の冒険が、すぐそこに待っている気がした。