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元悪役令嬢、毒を以て毒を制する  作者: セピア色にゃんこ
第1章 悪役令嬢、家出する
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冒険者としての第一歩、銀葉草の採取

銀葉草を見つけた瞬間、私は小さく息をついた。

その葉は確かに銀色に輝き、薄い光沢を放っている。湿った地面に生えるその姿は、森の中で際立って見えた。


「おっ、やったね! それが銀葉草だよ。」


サイラスが後ろから声を上げる。

私はそっと葉を摘み取り、用意していた小さな布袋に丁寧に収めた。


「こんなに簡単に見つかるものなんですか?」


「まあ、この辺りは比較的取りやすい場所だからね。でも、もっと深いダンジョンだと、こんな簡単にはいかないんだよ。」


「ダンジョン……。」


私は彼の言葉に興味を引かれ、顔を上げた。


「サイラスさんがいつも行っているダンジョンは、どんな場所なんですか?」


彼は一瞬考える素振りを見せ、それから軽く笑った。


「そうだな……場所によって全然違うけど、共通して言えるのは、どこも危険がいっぱいってことかな。」


「危険、ですか?」


「うん。モンスターがいるのはもちろん、地形が迷路みたいだったり、毒の罠があったりね。でも、その分だけお宝や希少な素材が眠ってるんだ。」


「お宝……。」


彼の言葉に引き込まれるように、私は耳を傾けた。

冒険者にとってダンジョンは、命の危険を伴う挑戦の場であり、同時に新たな可能性を切り開く場所でもあるのだろう。


「そういえば、この銀葉草も、もっと希少な『金葉草』っていう上位素材があるんだよ。あれは確か、Aランク以上のダンジョンでしか見つからないんだ。」


「金葉草……。」


その名前は薬草学の書物で何度も目にしたものだ。

その薬効は非常に強力で、希少な解毒剤の材料にもなる。


「いつか見てみたい……。」


ぽつりと呟いた言葉に、サイラスが少し驚いたように顔を向けた。


「いいね! じゃあ、いつか一緒に探しに行こうか。」


「えっ?」


突然の提案に、私は目を丸くする。


「今すぐじゃなくていいよ。でも、ルナフィーネさんなら、きっと金葉草を見つけるのに向いてると思う。」


彼の軽い笑顔には、どこか本気が混じっているように感じられた。


「……考えておきます。」


私は目を伏せ、小さく頷いた。



森の出口に近づく頃、サイラスがふと立ち止まった。


「っと、そろそろ戻るか。」


「はい。」


銀葉草を収めた袋を大事に抱えながら、私は彼に続いて森を抜けた。


「今日はこれで登録も完了だし、初仕事もお疲れ様ってとこだな。」


彼は気楽な口調で言いながら、振り返って笑った。


「次はもっと難しい依頼に挑戦してみるといいよ。君ならきっと大丈夫だから。」


「……そう思いますか?」


「もちろん! 実際、さっきの採取だって冷静だったしね。」


その言葉に、私は少しだけ自信を取り戻したような気がした。



ギルドへ戻ると、受付の職員が笑顔で迎えてくれた。


「お帰りなさい! 銀葉草の採取、お疲れ様でした。」


袋から銀葉草を取り出して見せると、職員は満足そうに頷いた。


「これで登録は完了ですね。おめでとうございます!」


渡されたのは、小さな金属製のプレートだった。

それは、冒険者としての第一歩を示す証だった。


プレートを手に取った瞬間、何とも言えない感情が胸に押し寄せた。

私が初めて自分の力で手にしたもの。それは、過去の私には考えられなかったことだった。


「これが冒険者の証……。」


「そう。これを持っていれば、君も立派な冒険者だよ。」


サイラスが笑顔で言った。

その言葉に、私は少しだけ微笑んだ。



ギルドの外に出ると、すっかり夕方になっていた。

空は赤く染まり、遠くで鳥の鳴き声が聞こえる。


「これからどうするの?」


サイラスが私に問いかけた。

私はプレートを手にしながら、ゆっくりと空を見上げた。


「……まだ分かりません。でも、やってみる価値はあると思います。」


「いいね。その気持ちがあれば、どんな依頼でもきっと乗り越えられるよ。」


彼の言葉に背中を押されるような気がした。


「ありがとう、サイラスさん。」


彼は軽く手を振って笑った。


「これからも一緒に頑張ろう。ギルドでまた会おうね。」



家に戻る途中、私はプレートを胸に抱えながら歩いた。

これが、私の新しい人生の始まり。冒険者としての第一歩だ。


これからどんなことが待ち受けているのかは分からない。

それでも、少しずつ自分が変わっていく予感がしていた。


「これからが、本当の挑戦ね。」


カイが足元で静かに歩いている。彼もまた、私の心を見透かしているようだった。


私はそっと深呼吸をして、前を見据えた。

次の冒険が、すぐそこに待っている気がした。



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