いざ、冒険ギルドへ!
「さて、今日は街に行くぞ。」
唐突にそう言ったマティア婆さんの言葉に、私は驚いて顔を上げた。
「街……ですか?」
「そうじゃ。買い物があるし、お前さんも少し外の空気を吸った方が良かろう。」
私はその提案に少し戸惑った。今までこの森の中で穏やかな日々を過ごしてきたが、街という言葉には少しだけ不安を感じていた。
けれど、マティア婆さんが私を見つめる目は真剣だった。
「行かない理由でもあるのか?」
その言葉に反論の余地もなく、私は静かに頷いた。
◇
馬車に揺られること小一時間、街の広場に到着した。
見慣れない活気あふれる景色に、私は目を奪われた。
広場にはたくさんの人が行き交い、商人たちが声を張り上げて商品を売り込んでいる。
屋台からは香ばしい匂いが漂い、子どもたちの笑い声が響いていた。
久しぶりに見る賑やかな光景に、私は少し圧倒されていた。
「ほれ、遅れるぞ。」
前を行くマティア婆さんの声で我に返り、私は急いで彼女の後を追った。
「ここじゃ。」
彼女が立ち止まったのは、木製の看板が掲げられた建物の前だった。
そこには「冒険者ギルド」と大きく書かれている。
「えっ……!」
私は思わず立ち止まる。
ギルド――それは、私にとって未知の世界だった。
「悩むなら、一歩踏み出してみるんじゃ。」
マティア婆さんはそう言うと、私の背中を軽く押した。
「行きなさい。」
「ま、待ってください!」
私が慌てて声を上げる間もなく、扉が開かれた。
ギルドの中は予想以上に賑やかだった。
壁には数えきれない依頼書が貼られ、冒険者たちがカウンターで熱心に話し込んでいる。
笑い声や、時には小さな口論も聞こえる。
「……ここが、ギルド……」
初めて目にする光景に圧倒されていると、見覚えのある背中が目に入った。
「あれ、ルナフィーネさんじゃないですか?」
振り返ったのはサイラスだった。
彼の軽い笑顔を見た瞬間、私は少し緊張がほぐれた。
「ギルドに用事でも? もしかして登録?」
「えっ、いや……その……。」
動揺して言葉を探している私に、マティア婆さんが背後から声をかける。
「ほれ、詳しいことはあんたから教えてやるがええ。」
「えっ、僕が? そういう感じですか。」
サイラスは困惑したような表情を浮かべながらも、私をカウンターへと連れて行った。
◇
ギルド登録には保証人が必要だと説明され、私は少し戸惑った。
けれど、隣にいたマティア婆さんとサイラスは、すぐにそれを引き受けてくれた。
「この子は薬草の知識が豊富で、森の中でもしっかり動ける。」
「僕も保証します。この前だって冷静に解毒剤を作ってくれたくらいですから。」
二人の言葉に後押しされ、登録手続きはスムーズに進んだ。
「これで登録は完了です。ただし、初回の活動として試験を兼ねた採取依頼がありますが、いかがでしょう?」
職員がそう提案すると、私は少し緊張しながら頷いた。
「採取依頼ですか?」
「はい。近くの森に『銀葉草』という薬草が自生しています。それを一定量集めてきていただければ、正式に登録が完了します。」
「銀葉草……」
薬の調合に使われる薬草だということは知っていたが、自分で採取した経験はなかった。
それでも、初めての挑戦に対して不安よりも期待の方が大きかった。
「ルナフィーネさんなら余裕ですよ。僕も付き合いますから。」
サイラスの言葉に後押しされるように、私は静かに頷いた。
◇
その日の午後、私はサイラスとともに森へ向かった。
「銀葉草って、どんな場所に生えているんですか?」
「湿気の多い場所だね。あと、銀色っぽく光る葉っぱだから、意外と分かりやすいよ。」
森の中は静かで、木々の間からわずかに差し込む光が幻想的だった。
足元には落ち葉が敷き詰められ、湿った土の匂いが鼻をくすぐる。
「注意すべきモンスターは?」
「んー、小さい毒虫がいるくらいかな。でも君なら解毒剤もあるし大丈夫でしょ?」
彼の軽快な口調に少し戸惑いながらも、私は彼の後をついて歩いた。
「この辺りに銀葉草があるはずだよ。」
彼の言葉に頷き、私は目を凝らして銀色に輝く葉を探し始めた。