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元悪役令嬢、毒を以て毒を制する  作者: セピア色にゃんこ
第1章 悪役令嬢、家出する
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婚約破棄の夜

王宮の大広間は、豪華絢爛な装飾ときらめくシャンデリアの光で輝いていた。

絹のドレスを身に纏った貴族たちが華やかに笑い、優雅にグラスを傾ける。

だが、その中心で繰り広げられる場面は、誰もが息を潜めて見守るほど異様だった。


「ルナフィーネ・アルベルト!」


王子の冷たい声が静寂を切り裂いた。

その声に呼ばれたルナフィーネは、深紫のドレスを身に纏い、静かに顔を上げた。

影の一族としての誇りを表すその装いは、他の貴族たちの鮮やかな色彩とは対照的だった。


「お前との婚約を、ここに破棄する。」


途端に大広間がざわめき立つ。

貴族たちの間でささやき声が交わされ、誰もが冷たい視線を彼女に向けていた。


「まあ、影の一族なんて婚約者にふさわしくないわ。」

「王子様のそばに闇の仕事をする者がいるなんて、恥ずべきことだ。」


噂話が耳に届いても、ルナフィーネの表情は変わらなかった。

彼女はまっすぐ王子を見つめ、ゆっくりと頭を下げる。


「承知いたしました。」


彼女の冷静な返答はさらに場のざわめきを煽った。だがその瞬間――

王子の隣に立っていた高官が、突如苦しみだした。喉を押さえ、声を絞り出すように倒れ込むその姿に、場内は一気に混乱に陥る。


「毒……!? これは毒だ!」


召使いや衛兵が慌てふためき、誰もが口々に騒ぎ立てる。

だが、その中でただ一人、冷静だったのはルナフィーネだった。


「慌てる必要はありません。」


ルナフィーネは落ち着いた声で言い、ゆっくりとポケットから小瓶を取り出した。彼女の冷静な態度がかえって貴族たちの疑念を煽る。


「これを飲ませれば助かります。」


彼女は高官のそばに跪き、小瓶を慎重に開けた。その行動に、周囲の人々は息を呑む。


「どうしてお前が解毒剤を持っている?」


王子が鋭い声で糾弾する。


ルナフィーネは王子の視線を受け止めながら、冷静に答えた。


「影の一族の者として、毒も薬も扱いは心得ています。予期せぬ事態に備えるのは当然のことです。」


彼女の声は冷たくも的確で、その場に漂う混乱を静める力があった。


彼女は小瓶の中身を高官の口元に流し込む。数秒後、苦しそうだった高官の呼吸が安定し始めた。彼の表情からも次第に痛みが消えていくのを見て、場内にようやく安堵の気配が広がった。


「助かった……。」


高官のかすれた声が響く。だがその一言で全ての疑いが晴れるわけではなかった。


「それでも、なぜお前がこんな場面で解毒剤を……?」


王子は疑念を捨てきれず、再び問い詰める。


「影の一族が毒と解毒剤を扱うのは日常です。この場に解毒剤を用意できる者がいなかった――その責任を問われるべきは私ではなく、王宮の管理です。」


ルナフィーネの冷静な反論に、場内のざわめきが再び止む。


「それでも私は婚約破棄を受け入れます。影の一族としての役目を果たした以上、ここにとどまる理由はありません。」


その宣言に、大広間は再びざわめきに包まれた。だが彼女はそれを意に介さず、王子に冷ややかな視線を向ける。


「王子、どうぞ新たな婚約者とお幸せに。」


そう言い放つと、ルナフィーネは静かに背を向け、大広間を後にした。



王宮の外に出ると、冷たい夜風が彼女の頬を撫でた。澄み渡る夜空に浮かぶ月を見上げながら、ルナフィーネはひとりごちた。


「すべてを失った……。」


だが、彼女の瞳には悲しみではなく、どこか決意のような光が宿っていた。


(でも、これが私の新しい始まりになる。)


闇に覆われた森の中、一筋の月明かりが彼女の進む道を照らしていた。

それは、影の一族として、そして新たな人生を歩むための第一歩だった。

悪役令嬢 ルナフィーネ・アルベルト

挿絵(By みてみん)

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