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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

黒猫と氷

作者: アンダーユース

山を登り、疲弊したアリスを待ち構えていたのは、大柄で睨んでる国境警備員。その奥には、大きな鉄の国境門がある。その左右には雲をさえぎらんとする壁があり、辺りを見回しても、この門以外に入国方法はなさそうだ。


 アリスがこの国に入国しようとした理由は単純であり、仕事として依頼者に荷物を届ける必要があるからである。でなければ、こんな趣味の悪い国境壁をつくる国なんてきていない。

 他国にて働いている孫から持病に効くとされる薬を、両親代わりに育ててくれた祖父に渡すよう依頼されたのだ。その孫は応対しているときにいつも快活な表情をおしており、生まれた時から両親、祖父母がいないアリスにとっては全く知り得ない表情だった。自分の知らない知識を持っている奴は大体偏屈で上から目線、それに、知識というのはどこかで知り得ると利点が失われると思っていたためそこまで自分が劣っているようには感じないが、明朗快活な奴は自分の味わったことない感情を持っている。感情は他人には知り得ない。だから自分より優れた感情を持っている奴を見ると、素直になれない青年の自分を慰められない。自分より良い思いをしているのだから感情ではなく物として、金として通常ぶんより一割多く金をいただいた。それくらいはしてもよいと思っていた。その元気な依頼者は、少し心配そうな表情を見せながら、それでも祖母の病気がよくなるように、はにかむ笑顔を見せながら、きた道を歩いていった。その真っ直ぐな背中を見ていると金額を上げた数分前の自分が侘しく、気恥ずかしい。それに、自分の感情処理のために他人を陥れたと戒め、アリスは依頼された荷物を必ず届けねばと決意を固めた。

 

 アリスは、目の前の警備員が通常の様相ではなく、困惑している。頭を左右に揺らし、目は眠たそうに、頬も赤くなっていた。完全に酔っていた。警備員の足元には飲みかけのビール瓶。その隣に酔い覚め様の炭酸が入っている未開封の瓶が横たわっている。それにもかかわらず警備員は眠たげだが鷲のような鋭い目はこちらを睨んで離さず、海賊のような無精髭は近づきづらい雰囲気を醸し出している。入国が億劫になってきた。入国警備員が酔っ払いの国なんてろくでもない。酔っ払いながら見ず知らずの人間を睨んでくる入国警備員は、それ以上に碌でもない。そうは思いながらも入国する方法を考えていた。

 警備員は酔いを冷まそうとに手に持っていた炭酸瓶の細い口を手刀で綺麗に割ると入っている炭酸をかばのように一気に飲み干した。飲んでいる時の喉の動きやそんなときもこちらを睨んでいる仕草その挙動がアリスに威圧感を与えている。

 国境警備員はソーダの刺激で酔いが覚めたのだろうか。今は話せるのだろうか。少しの希望が見えてきたところで、アリスは警備員の恐怖心に対抗するために、いつも通り自分をつくって警備員に立ち向かう。

 <僕。いやこの俺様はこの前親父にぶたれそうな子どもを腕で拾い上げ親父にキックし、地元では美味しいと評判のカボチャ味のケーキを作って孤児に分けてあげたじゃないか、肺が弱い友達の病気を自分の全てを出してなおしたのだって全部僕がやってきたことじゃないか。そうだいける、ける、行ける……>

 口角がニマッと上がり、相手を睨む。鼓動がやけに静かだ。肩の力も抜けてきた。論理的に考えることが難しくなるたびに自信が湧いてくる。

 男と対面して、改めて見直し、精神的に優位になったことを確認したアリスは、男と対面することを決める。どうなってっも自分の勝ちだ。そう思いながら歩く。

 しかし、大男にズンズンと近づきながら、徐々に呼吸が浅くなり、鼓動が強く、額から頬にかけて冷たい汗が垂れる。

 その自信は結局壊れくすく、脆い自信は軟いことを恐怖が覆い隠している今の状況から知る。呼吸が浅く肺から喋るしかない。肺から空気を搾りながら、話した。

「すみません、僕は運び屋のアリスです。荷物を届けにきました。」

最後の語尾が裏返り、酸欠気味になりながら、相手の男に何を言われるかびくびくしている。心臓が高い鼓動を鳴らしている。

「今は何時かわかっているのか、今は入国時間外だ。」

 低い声でアリスに言う。

 アリスは時計を身につけていなかったのでわからなかった。そもそも、他の国ではいつ行っても国境が空いていたので入国には時間制限を守らなければいけないなんて知らなかった。自分の経験上知るはずもないことでこれから怒られる。この何もできない、ただ自分の立場が不利になる沈黙の時間が嫌いだ。アリスは情けなく首を横に振った。

 男はだんだんと頬が肌色に近づいており、目は冷静になっていた。怖い。

「今は十八時三十分、今日は久しぶりに定時で帰れるって思ったらこれだ。緊急の連絡が入って、時間外だけど対応してほしいと言われたんだ。上司に。そして三十分くらい君を待っていたんだ。君に当たってもしょうがないし事情もあるだろうけど、自分の時間が三十分も取られたんだよ。コーヒーを入れて優雅に飲むことだって、自分の心に手を当てて情緒豊かな詩を創ることだってできた。こんなに貴重なのに誰かのために時間を食われる。こんな哀れなことってあるかい。しかもいつ来るかもわからないやつにさ。これが俺の仕事だからさ、ほら、ここの通行書を出しな。そしたら通してやるから。」

 あまり怖さに当たらなかったのでホッとした。目の前の男は日常に、現実に怒っていた。自分ではなかった。アリスは、急に目の前の警備員に哀れみを感じた。現実感で押しつぶされそうな男を見てると、自分が勝ち誇っているように感じる。体が軽くなった気がしたので機敏に通行証明書を鞄から取り出し、渡した。

 警備員は通行証明書と目の前の運び屋なる男を見比べながら矛盾点がないか探していた。

 やがて、証明書と一致していることを確認したら、証明書と入国許可証をアリスに渡した。

 警備員の頬は赤くなり、目は細くなっていた。しかし、あの怖い目ではなく、不満げで悲しげな目だ。警備員は何かもう少し文句を言いたくなり、アリスに話しかけていた。

「今週1週間は大変でしたよ、この仕事で家族を養ってる身としては。身分証明書を見て確認して大丈夫だったら通して、ダメだったら追い返す。こんな仕事楽だとお思いですか。ちゃんと仕事をしてもその男が犯罪者、誰かを殺したってなったら誰に責任がつくと思いますか。私たち警備員に責任を負わせるんですよ。法律の解釈で私たちは警備員として犯罪者を国に入れないようにする仕事のようです。これまで証明書と本人の見分けしかつけない私にこれ以上何をやれって言うんでしょうか。」

 段々と頬が赤黒くなっていき、汗が沸騰し湯気が出た。しかし青白い目はまだ酔っているように見える。アリスは、終始困惑しながら、この男の話を聞いていた。

 「この前だって同僚のやつがそれで解雇になってました。入国させたやつが殺人鬼だってことを見分けられなかったからだそうです。やつが使用した凶器はスチール製のペン一本。二つの肺の分岐点の場所にペンを一突きしたら呼吸ができなくなり窒息死する。五人目の女を殺したのを現行犯で拘束して、ポケットを見ると入国証明書を見つけて外国籍のやつだってわかったようです。そしたら、その犯人を入国させた奴が悪いってなって、担当してた同僚が逮捕されました。普通の人の見分けがつくような仕事の経験も受けてきていなかった。そんなやつにどうして責任をおわせるのでしょうか。法律はそんなにも偉いのでしょうか。どこかに落とし所を見つけようと必死なのはわかりますが、責任者を見つけるその振る舞いになぜ私は怯えなければいけないのでしょうか。」

 茶黒い肌が赤くなるほど激情していた男はだんだんと夕方の静けさで冷静さを取り戻す。男は仕事を思い出した。そして男はスタスタと自分の持ち場に戻った。

 やがて男は門のそばにある円弧状の回転部を力一杯回すと、ギゴギゴという重い音で開いた。これでアリスは入国できるようだ。

 アリスは何も言わず軽く会釈をして入国した。アリスが歩いた後に、現実に押しつぶされそうなその男はアリスが何か事を起こさないように祈りながら仕事を切り上げて帰路に着く準備を始めた。日頃や仕事の愚痴を言ったからだろうか。見知らぬ少年へ怒鳴ってしまった申し訳なさと、心の底に溜まっていた心労が噴き出したことで頭では何も考えられ無くなっていった。

 頭を少し冷やそうと目を約十秒ほど閉じたとき、アリスを追いかけるように大きな黒猫がそそくさと入国した。そんなことも知らずに目を閉じながら鼻歌まじりで余っているソーダを飲み干したら頭が戻ってきた気がした。目を開けたら、今までの景色とは思えないほど明瞭に見える。

 急いで門を閉じて時間を見ると、もう十九時を回ったところだ。帰りの支度をしていた。窓に映る空模様は暗くなっていた。不法入国した黒猫は右前足を丁寧に舐め、道の真ん中を歩きながら夜へと溶けていった。今夜はまだ始まったばかりだ。


 入国したアリスは、地図とコンパスを見比べながら足早にサドヤンカ大通りを目指した。あまり知らない国に行くときは、大通りを目指す。たとえ細い道を通った方が地図上は

 最短距離だとしても、大通りから目指した方が結果的に速く行けることはこの仕事をしてから学んだことだ。

 数分ほど未舗装の道を歩くと、大通りに着いた。道全体はアスファルト調だが赤色に染まっている。大通りを歩いていると、道自体は綺麗に舗装されているが、ところにより商店の壁は薄黒く汚れており、扉の角はかけたままだ。飲み屋の前では今日の憂いを吐き出すかのように、殴り合いの喧嘩をしている。この時代にありがちな没落寸前の国家。道端に座って穴だらけの鉢を地面に置いている右半身付随の物乞いは、目は(うつろ)なまま上を見上げている。

 アリスはそのまま歩いていると横から突然強い風が吹き、砂つぶが目に入らないように反射的に目を閉じた。風がおさまり前を見ていると、今までいなかった奇怪な黒猫が前を歩いている。でっぷりと太っており、腹が地面に着きそうだ。何より身長が人間のこどものように大きく、歩くたびにのっしりとお腹が揺れているのを見ると、貴族階級に飼われてた猫のようだ。このまま四足歩行で歩いていたかと思うと、突然前足を上げて二足歩行になり、ノッシノッシと歩いていた。アリスはその猫が歩いているのを困惑しながら見ていた。周りの人々は日常の風景としてみていた。

 <この国では猫が歩いているのが普通なのだろうか。それとも俺だけ見えている幻覚なのだろうか。そうだとしたらなぜ今なのか。どう見たって健康体だというのに>

 目を丸くしながらじーっと立ちどまり、水でも飲もうと背負い鞄を前に出すと鞄が空いていた。スリに何か取られたと思い急いで鞄の中身を確認すると依頼者から貰った届け物がなくなっていた。目を白黒させながら今まできた道を思い出していると、目の前の猫の右手に高級そうな白い箱を持っていた。あっけらかんとしていると、その黒猫は右隣にあった露天からリンゴを一つ手にとり齧りながら右手の細い道へ消えていった。

 <ちくしょう、猫に物を取られるなんて悪い冗談だ!これで荷物を届けられなかったらあの依頼主はどう思うのだろうか。それに、今まで運び屋として積んできた実績がなくなってしまう>

 アリスは何か悪い夢だと思い頬を叩いたが、ヒリヒリと痛い。あの猫を追いかけていくと人間が一人入れるかどうかくらいの細い道がある。その脇道に黒猫が歩いているのを見つけたので走ってその猫についていく。猫は歩いているのにも関わらず距離は一向に縮まらず、猫は右の道に進んだ。

 そこは道はなく家しかなかったが、ガラスを割って中に入ると裸体の女と画家の男がベットの上で抱き合っていた。その女に近くにあった瓶を投げつけられ頬が切れると扉の外に猫の耳がみえ、それに対抗するかのように油絵のペインティングナイフをもち扉を蹴飛ばしながら黒猫を追いかけていった。右左に追いかけていると、ついに猫の背中が見えた。そこに向けてペインティングナイフを投げつけるとその猫は急に目の前からいなくなった。目の前には盗まれた依頼物が綺麗に置いてあり、そのうえには黒く光っている猫の毛が落ちていた。

 <ちくしょう、揮発性の高い猫だったか。とりにがしたのは大きいな。>

 なんだかモヤモヤしながら依頼物をとり右手を見ると、依頼された場所まできていることに気がついた。まっすぐ歩くと、周りには人影が見当たらず、勿論、猫の姿もない。釈然とせずともアリスはドアをノックして依頼人を呼んだ

「ノヴァク様、運び屋です、荷物を届けにきました。」

 ドアを開けると、痩せこけていて目白が黄色がかっている老人が出てきた。眠たそうな顔をしている。肝臓が悪いのだろうか、肌が黒く変色している。

「運び屋のアリスです。こちらは貴方のお孫様からの療養祈願と薬を入れてあります。確認の方をよろしくお願いします。」

 箱を開けると厚い瓶の中には青白く、粘度の高い液体が入っている。その横には和紙で作られたお守りが丁寧に包装されている。

 その老人は目尻が垂れた目を下げながらニコリと笑っていた。

「ありがとう、見知らぬ青年よ、出来れば名前を教えてくれないか。」

 この仕事をしているときに名前を聞いかれたことはなかったので、戸惑いながらも答える。

「私の名前はアリス、アリス・ワイドと言います。」

 「アリスか、いい名だ。孫からもらった薬はもう役に立たないことはもうわかる。自分の命の長さが手に取るようにわかるほど短くなっている。こんな怖いことはない。」

 アリスの人生経験上自分の人生の長さがわかることなんて無かった。ただ、哀れに思い今後の人生がより良いものになってほしいと思いゆっくりと頷いた。ただ、機械的に。

 その老人はにっこりと頷くと、人生の苦労や幸せになる方法について教えた。

 年若い少年にとってはただ、頷くしかすることしかできなかった。

 そんなおりに突然目の前の老人の目が無機質になったと思えば、高速で眼球が回転し、斜視気味になりその老人は下を向いた。アリスは驚嘆しながらも老人に目を向けると老人はさきほどまで曲がっていた腰がまっすぐになって、卑しい目でうわ詰まりになりながら、丁寧に手首を舐めていた。

「合格だよ、合格。男で名がアリスのやつを探していたんだ。かの貴方様の一番の腹心である俺様に行かせたんだ。どんなやつかと思ったらお前ほど現実から逃げて夢にうつつを抜かしているやつなんてそうはいないさ。」

 ニンマリと笑いながら言うとその老人は、懐に仕舞い込んでいた荷物を、取り出して乱暴に箱を破る。そしたら、純金製の鷲の羽が装飾してある口紅が入っており、それを、アリスの中に入れた。

「今からお前を恨んでいるやつに出会ったらこの口紅はお前の口にベットっりと塗り込むだろうさ。そしたらあんたは立派な魔女になる。男だけどって。そんなこと気にすんなよ。まあじきにわかるさ。こいつに頼るようになる事を」

 目の前の老人はそう言い終えると突然老人は呻きながら頭が爆発した。年寄りの臓物とねっとりした脳が全身にかかる。

 アリスは初めて人の死を直視した。


 アリスは何かわからなくなり、立ち塞がっていた。そして彼の得意な妄想でこの場を切り抜けようとした。ただ、今はあまりにも現実離れしており、逃げ方がわからなかった。妄想は少し現実のエッセンスを入れることで力となることをこのときのアリスはわかっていなかった。現実離れした出来事を補うものではなかったのだ。

 だから、現実に向き合う。初めてだ。ただ向き合い方がわからない。いつもより多く考え事をすれば良いのだろうか。紙に今後の方針を書けば良いのだろうか。それとも誰かに相談して教授して貰えば良いのだろうか。方法論は思いつくのに実際にできることはわからない。具体がわからない。アリスはただ、呆然としていた。

  <老人の頭が爆発した。そもそもなぜ頭が爆発したのだろうか。いや、そもそも俺が悪いのか?余命いくばくかの老人だ。命が尽きようとすれば精神が錯乱して頭が爆発する病気くらいあるだろう>

 アリスの頭の中にはそのような症状の病気はない。だが医者ではないのだ。そんな病気があったって驚きはしない。そんな考えても仕方のないことを逡巡していると、少し前の黒猫を思い出した。あの、八百屋のりんごと配達物を泥棒したあの猫だ。あの卑しさと決して人にばれなかった認識能力の低さ、そしてあの老人の代わり様、あれは黒猫の仕業で間違いないと結論づける。それに誰かに仕えていたようだ。悪魔の手先で間違いない。情報は結論づいたので今度は対処法について考える。

 <猫が悪い。悪いやつは犯人に逮捕されなきゃいけない。誰に言う。誰に、この悪行を。このまま黒猫が裁かれるべきだ。誰に?この国の人に。そして、あの純朴な少年に。>

 アリスはこの場から逃げるように走った。誰がいるかなんてわからない。どんな景色だったかなんてわからない。ただ信頼できる人に殺人事件が起こったことを伝えたかった。脇道を通ると先ほどの家があった。割れた窓から家に入ると先ほどまでなかった天使二人と川が描かれた宗教画があった。これは悪魔に対抗できると思い、その絵を取ると、正面に広げながら先ほどの脇道に戻った。そして、サドヤンカ通りまで右左行きながら先ほどの道に辿り着いた。

 八百屋の反対側の歩道に小さな交番があった。そこに馬車を避けながら走り、交番に入った。あの事実を言わなければ。目の前の中肉中背の警察官に伝えなければ。走ったばかりで息が切れそうだ。

「さっき配達員として依頼者の家に行ったんですが、その際に依頼者の中に黒猫が入り込んだと思ったら突然頭が爆発してその人が死んだんですよ。早く行かなきゃ猫に逃げられる。ただえさえ逃げ足の速い猫だ。こんな話す隙に逃げているに違いない。早くいきましょう。そして捕まえて丸焼きにしてしまいましょう。」

 警察官は精神異常者が来たと思い、その際のマニュアルを必死に思い出しながら、まずは聞くことに努めた。

 アリスはイライラしながら頭を掻きむしり、目を鋭くしながら口速に伝える。

「速く行かなきゃダメなんだよ。そうだ、猫なんだながら老人の死体を食べているに違いない。肉体はニオイがひどいが、脳みそはニオイが少ないからツルリと食べてしまう。そうなったら犯行現場が荒らされる。いや、罪に罪を重ねているんだ速く行かなければ。ああ、そうだそいつから口紅を貰ったんだ。配達物の中には薬が入っていたんだけど、口紅に変えられたんだ。きっとあいつのせいだ。老い先短い老人には要らないだろうって捨てて入れ替えたんだ!」

 ただあの黒猫が原因で老人が死亡したことだけはわかったのでそのことを伝えて、あの猫からもらった口紅をカバンの中からこの警察官にみせようとするが見つからない。ただ、この中からウサギが刻印された金貨が出てきたのでそれを警察官に見せ、その後に何回も踏みつけた。警察官は、厄介で陰湿な精神病者に絡まれたと思いストレスが溜まってきた。何か逮捕できる案件であれば手錠で拘束できるのに。そう思いながら適当に相槌を打っていた。

「ほらこいつだ、こいつのせいで俺は大変なことが起きた。クソ、クソ、クソ!!、そもそも、お前の目の前で起きていた黒猫の窃盗があったんだぞ。あれを取り逃すってどういう要件があれば取り逃すんだ。」

 そのとき、警察官はその精神異常者に緩みが出たので取り押さえ、先ほどの八百屋の盗みは妄想に取り憑かれた目の前の狂人が行ったっことだと結論づけて、現行犯のやつを捕まえた。その後に壁にけてある電話機を取り出し他の警察官へ応援を要請した。

「午後十一時二十三分、公務執行妨害と窃盗罪にて逮捕する。おい!頭のおかしい外人がやってっきたぞ。早くこっちにきてくれ、それと、精神科医もこちらに連れてきてくれ、こっちはこんな奴に時間を取られる筋合いはないんだよ。」

「なぜだ!今さっき殺人事件が起きたんだぞ!おい、聞いているのか!」

「お前はあろうことか自分の殺人と窃盗を猫になすりつけようとしているのか、なんてやつだ、おい早くきてくれ、コイツはとんでもないやつだ」

「おまえも悪魔の手先だったのか、十字架を持ってくればよかった。」

 手足をバタバタしながら暴れているアリスに来ていた警察官は手元に持っていた鎮静剤入りの注射器を静脈に挿し、注入した。

 アリスは何か小言を言った後に段々と手首から力が抜けていき、目が浮ついた後にへたれ込んだ。そのばにきた精神科医はそのままアリスを担架に載せて運んでいる。なぜだか蒼白く透明な夜空を見ながら俺のしたことは間違っていたのか、そんなことを思いながらアリスは運ばれながら眠りについた。夜空はやけに冷たかった。

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