回想
肌寒い朝と手首の傷、少し昔の話を思い出してしまったの。
翌朝ベッドの上で目覚めた私は傷だらけの手を見上げた。
左手首の包帯から血がにじみ肌寒さが傷に滲みる...
こんな寒い日は思い出してしまうものがある、
私の両親が死に義母に引き取られた時だ。
嫌々引き受けたんだろう私は厄介者でしかなかった。
『お前の死んだ両親はほんと哀れだね、
救おうとする人ほど救われないし優しいとただ利用されて終わるだけだよ、世の中皮肉なもんだね』
私が15才の時両親は死に義母は酒に溺れていた。
優しかった両親は都合よく扱われ金をむしり取られた挙句に殺されたのだと後から酔った義母から聞かされ、ほどなくして私はそんな現状に嫌気がさして家を出た。
何人か一緒に暮らそうと提案をしてきた人がいたけど私を見る目が物を欲しがる子供のような目で気味が悪かったのを今でも覚えている。
そして、その中の一人が神岡だった。
不思議と神岡以外の男とは次第に連絡がくる事はなくなっていき最後に残った神岡と同棲、そして付き合うまでに致ったものの暫くして監視カメラで四六時中監視されてるような男性向けのフィギュアを舐め回すかのような気持ち悪い視線を感じるようになり私は逃げるようにその家を去った。
周りの人間は優しい人だと言うけど私と一緒に居る時にだけ感じる異常な違和感があったのだ。
それから少しして私は興味本意で始めたSNSを通じて渚君...大原渚と出逢った。
なんて表現すれば良いか分からないけどただ一緒に居てくれているだけで安心できる不思議な人だった。
好きなもの、嫌いなものなんでも話あえた。
悲しい時、私の頬に温かい手を差し伸べてくれた手。
優しい眼差し、今でも鮮明に覚えている。
そんな彼と幸せに暮らし始めて数年経ったある日、
彼はSNSの誹謗中傷を理由に自ら命を絶った...
何故誹謗中傷されるのか私には理解ができなかった。
もっと色々話せば別の道もあったのだろうか...
様々な理由で彼を追い詰めた人間を殺していった今となってはもうどうでもいい事なのかもしれない。
今更な話だし、それに
『死人に口無し、か...』
もっと愛してると伝えたかった。
何百、何千、何億回と貴方に愛してるを伝えたかったんだ。
当たり前だと思ってた日常に甘えて言えなかった。
甘くて苦い私の過去。