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8/11

幸せな夢と現実


気が乗らない、できることなら会いたくもない。

でも、背に腹はかえられない...

渋々私はとある家の門を叩いた。




悲しい事に今の私は頼る親も友人も失ってアテがない。

残るは...


『おかえりっ‼︎やっと僕のとこに戻って来てくれたんだね、嬉しいよ‼︎』

...捨てた元彼である。


『やっぱりあの男は君にはふさわしくないと思ってたんだ、由乃は僕を選ぶべきなんだよっ』

『...』

名前で呼ばれる不快感を感じながらも言葉を聞き流す。

私がこの男、神岡を捨てた理由が少しでも共感してくれたら嬉しいな。

こんな奴にしか縋れない人脈の無さを今日ほど呪ったことはないかもしれない。


『ささ、中に入って。

珈琲淹れてくるね、入れる角砂糖は6個で大丈夫そうかい?』

『うん、ありがとう』

一応付き合ってただけあって私の事はよく知っている。

珈琲の香りと貴方のそういうとこだけは好きよ、

そういうとこだけ、あと都合が良い所くらい。


置かれた珈琲を覗きこむ。

ほんと自分の心の中を覗いてるみたいな気分になる。

人も木々も色を変えていくなかで私だけはドス黒いまま変えることができずにいる。

人はそう簡単に自分を変えれるものではない。

私の醜悪な心も変わることはないのだろう...


『今まで大変だったでしょ、よく頑張ったね』

神岡が馴れ馴れしく横に座り頭に手を乗せてきた。


『...自分しか座ってない電車に人が来て何故か自分の横に座られた時並みの不快感よ、どいて。』

『僕の電車に乗ったの由乃なんだけどなぁ...』


珈琲を飲みながら今までの経緯を神岡に話した。

『貴方は私のこと怖くないの?』

『なんで?僕は今でも君を愛してるし、

いつだって由乃の味方だよ?』


『何人も殺した人間の横に来て平然としてられるのね』

『はは、それでも僕は由乃を愛してるからね。

それに殺しが救いになる時もあるし、

他に苦しむ人も減るだろうし君は自分に正直で良いんじゃないかな。

死んで良い人なんて居ないとかそういう話は聞くけど死んだ方が世のためになる人は確実に居ると思うし、個人的な意見だけどね。

まぁ、後悔の無いようにやれれば良いんじゃないかな』


『そうね...』


『色々疲れたでしょベッド使って良いからゆっくり休みなね』

『うん、ありがと』



その夜、布団に包まり眠るといつも夢に出てくる光景を見た。

殺した奴達が目の前にいる夢、

前から何回も殺してるのに未だに夢の中で生きているのが忌々しい...


だが今回は違った。


夢の中で全員殺し終わった後、

亡くなった彼、渚君に逢えたのだ。

夢だと分かってる、それでも嬉しかった。

泣いている私の頬を温かい手で触れてくれたの。




『なんで目覚めたの...もっと見させてよ...』

夢から覚めてしまった私は泣きながらトレンチコートから血の付いた果物ナイフを取り出し、

裸足のまま外に飛び出し手首を切った。


もう一度逢える気がしたんだ。

同じ場所に行けないのは分かっている、

でも万が一、何百億分の1でも可能性があるなら私はそれに賭けたくなってしまったの。


『うぅ、渚君...逢いたいよ...』

雨の中泣き崩れた私を神岡は傘もささず駆けつけ強く抱きしめた。


『...やめてくれよ、また君がいなくなったら困るんだ』

彼の代わりにはなれないかもしれないけど。

由乃、愛してるよ...』


『私の心はとても醜いよ...』

『それでも君は綺麗だよ』


そんなに強く抱きしめないでくれ。

やめてくれ、彼を裏切ったようで心が痛む。

これ以上は...もぅ...

あぁ、頭の中がぐちゃぐちゃだ、

もう...どうにでもしてくれ。


神岡が唇を重ねてきたのを私は拒むことができなかった。


過去に縛られたままより今こうしてこの人と幸せに暮らした方が亡くなった彼も喜んでくれるのだろうか。

亡くなった彼を想いながら他の男に抱かれる私は...



手首から溢れた血と涙は秋雨と一緒に流れていった。


彼の想いも流れてしまうのかしら...

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