空の色は
民宿で一泊した後、
次の場所へ向かう途中で老婆に声を掛けられたの。
少しだけ時間に余裕があった私は天気の話をした。
ただ、それだけ。
ある晴れた昼さがり、
そこにはぽつんと縁側に座っている老婆の姿があった。
誰かを待ってるかのようなそんな雰囲気だった。
『お嬢ちゃん私暇なの、良かったらお茶菓子もあるからお相手してくれないかしら?』
多少時間に余裕があった私は老婆の誘いを受け隣に腰掛けた。
『あなたちゃんと寝てるの?顔色良くないわよ』
老婆は心配そうな顔で覗き込んできたけど顔を横に背けた。
『寝てます、でも夢の中で出会うのは殺した奴らだけなの。
殺され足りないのかしら...
もし夢の中で愛した人が出てくれるなら私は永遠に眠っていたいのに』
『面白い事を言う子ね、
人間どうしても話が通じない相手がいる。
話し合いで解決するなら戦争なんて起きないからね、
そういう人間とは関わらないのが一番なのよ』
老婆はお茶をすすり空を見上げた。
『そうね...』
ふと自分の手を見た。
血だらけ傷だらけになった手、
次は何に手を染めるんだろう...
苦いお茶をすすり空を見上げた。
『お婆さんも苦い過去があったのね』
『そうね、後悔しかしてないよ。
私は時間の使い方がとても下手だったのかもしれない。
色々なものを失くしてから気付いて繰り返して...
今ある時間を大切にね、無駄にしてはいけないよ』
老婆はもう何も入っていない湯呑みをすすり空を見上げた。
『この気持ちを曇らせたまま燻っていたくはないの、時間の無駄にはなるけど復讐すると気分は晴れるわ』
『...あれ、さっきまで何の話をしてたかしら?』
キョトンとする老婆の顔を見て私は空を見上げた。
『そうね、空が綺麗ですねって話をしてたとこよ』
老婆は欠けた湯呑みを使っていた。
『お婆さん、あそこにあるトンボの絵が描いてある湯呑みは使わないの?』
『亡くした人の物だから私は使わないの。
でもまた会える、何故だかそんな気がするの』