離れてても一緒だよ
|||||||||||||||||||||||| ピッ
『3212円になります』
道中ホームセンターを見かけたので買物をする。
『あの、これ...』
男性店員が気まずそうにこちらを見る。
『死にませんよ、キャンプ用です』
店員は安心した顔で会計していた。
山しかない場所で縄を買うとそう思われるのだろうか。
山以外なにも無い場所、
旅番組ならきっとこう言うかしら。
『空気が綺麗ですね』
そして今回ありがたい事にお茶会のお誘いを受けた。
これから殺す相手に。
◆2人目HN:楓 サブ垢HN:もみじ
備考:彼氏複数.承認欲求高め.
以前から適当な画像を拾いインスタ投稿しながら楓の加工自撮りをベタ誉めしておいた甲斐もあり、
気を良くしたのかお茶会に招かれた。
誹謗中傷していたサブ垢も多少の加工はしてあるが似た画像やアカウントIDも酷似しているので同一人物だろう。
『2人とも集まってくれてありがとう〜‼︎』
楓がニッコリと出迎え家の中に招き入れた。
(3人か、2人っきりなら都合良かったのにな...)
『素敵なお茶会になりそうですね』
作り慣れた笑顔で口元に手を置く。
『立派な家ですねっ、ご家族と暮らしてるのですか?』
『1人暮らしよ、たまに男が来るけど笑』
『楓さんすごーい‼︎』
『楓さんいっぱい彼氏さんいません?笑』
『1人だけにすると依存しちゃうから複数男持つようにしてるの、まぁ別れても1人くらいならいっかなって割り切れるしね』
『楓さんモテモテですもんねー‼︎すごーい‼︎』
隣にいる媚へつらう女との会話で楓は終始ご機嫌だった。
『渚さんって方ご存知ですか?』
会話の流れで私は軽く探りを入れた。
『あぁ彼ね、お金持ってそうだったから軽く引っ掛けて遊ぼうとしたんだけど彼女一筋っぽくてちょっと妬いちゃって虐めちゃったぁ笑』
『そうなんですね』
笑顔のままストローを噛みちぎれるほど強く噛み締めた。
理由なんていちいち聞かずに殺せば良かったか?
ガールズトークに汚い華を咲かせてた楓がトイレ離席した隙に同席していた女にそっと耳打ちをしてカネを握らせた。
『楓さんと2人きりでゆっくりお話したいのでこれで帰れますか?』
同席していた女は驚いた顔をしつつも握らせた万券の枚数を見てにんまりした顔で帰り支度をした。
『すみません、家事があるので私はこれで...』
『あら野村さんもう帰るの?来てくれてありがとね』
帰り支度を済ませた女はそそくさと立ち去った。
『楓さん山で映えるスポットあって案内するので良かったらお散歩しながら一緒に撮りませんか?』
他に誰か来られても面倒なので場所を移させる。
『そうね、折角だしそうしましょうか』
山に入り目的の場所まで歩く、歩く、歩く...。
『はぁ、結構距離あるわね...』
楓の息があがっているのを尻目に奥に進む。
『...着きましたよ、足場悪いので気をつけて下さいね』
ひとけも無くうっすら木々が色づいている場所に辿り着くと楓はへとへとになりながらも木の横で自撮りを始めた。
その後疲れきった楓は木に寄りかかりのんびり自撮り画像の加工をしていた。
『加工お上手ですね、ほんと殺しても誰か分からなそうな程に...』
ゆっくりと手頃な木の棒を手にとり楓の頭に叩きつけた。
『なん"で、たずげぐげっぇ』
驚き助けを求める声をあげようとしたタイミングでもう一発。
メギィッ...。
骨の音なのか殴った棒の音なのか。
山に鈍い音が響いた。
(やっぱりこれくらいじゃ死なないか...)
『あなたが虐めて殺した渚君は私の彼氏なの、あなたも憂さ晴らしや冗談で人を死に追い込むの?』
『あ"ぁ"ぁ"...』
頭と顔から血を流しふらつきながらも逃げようとする楓の首に縄を巻き付け締めあげた。
生きるのに必死なのだろう楓は爪を立て私の手を掻きむしってきた。
生きるのを諦めた人もいるなかでどうしてこういう奴に限って生きるのに必死なのかしら。
世の中って本当に...皮肉ね。
『ごめんなざいもう"しまぜんお金っあげますごめんなさいゆるじでくださいごめんなざいごぇ"なざごぐげぇ"...』
何度も、何度も、何度も消え入りそうな声で謝罪の言葉と泡を吐きながら楓はゆっくりと息絶え崩れ落ちた。
『...答えを聞きそびれてしまったわ』
私は息絶えた楓からスマホと家の鍵を取り出しその場を去った。
『あと、これも...』
【LINE:トークルーム】
『急にごめんね、今からおうち来れないかな?淋しくて...( ; ; )』
『うん、今行くね‼︎1時間くらいかかるから少し待っててね‼︎』
楓のスマホを使い誹謗中傷を加担した男とのやりとりを確認した後、
なりすましたまま楓の家に呼び出す。
スマホの裏に男とのツーショットもあるので多分この男だろう。
画像フォルダには何人もの男とツーショットやキスをしている画像があるから何とも言えないけど。
『ビッチが...』
◆3人目HN:山法師
備考:都合の良い男
到着予定時間の10分前に山法師は来た、A型かな。
ドアを開けて挨拶をする。
『え、どなたですか??』
『楓さんのお友達です、今彼女は買物行ってるので戻るまでお茶をして一緒に待ちましょうか』
『多少苦味があるかもしれませんが健康に良いお茶みたいですよ』
事前に砕いておいた睡眠薬をお茶に混ぜ飲ませる。
『そうなんですね』
眉間にシワを寄せつつ山法師は甘いお菓子を口に入れて誤魔化していた。
『あの、手の傷...大丈夫ですか?』
『あぁ、大丈夫ですよ手癖の悪い猫に引っ掻かれたんです』
他愛のない会話を1時間ほどした頃、山法師が微睡んだ。
『今日はお疲れでしょう、少し休みましょう』
山法師を横にさせると家にあったビニール紐で手足を縛った。
身動きがとれない異変に気付いた山法師が起きて騒ぎはじめた。
『え!?なに、どういう事ですか‼︎』
『彼女はどこにいるんですか‼︎』
うろたえる山法師を無視して質問をした。
『あなたが虐めに加担して殺した渚君は私の彼氏なの、あなたも憂さ晴らしや冗談で人を死に追い込むの?』
この人は答えてくれるかしら。
この質問で状況を察したのか山法師は子犬のように大人しくなった。
『あれは...彼女から指示されて逆らえなくて言われるまましてしまったんです...』
自分の意思さえ他人に委ねてこの男は人を死においやったのか。
『お願いです...彼女に会わせて下さい...』
泣きながらただひたすらに懇願する山法師。
複数の男がいる事も知らず楓の言いなりになっているであろうこの男を見てほんの少しだけ哀れんだ。
『...今これしか手元にないの』
私は両手で包みこんでいた手をゆっくり開き
切り落とした楓の指を彼の目の前に転がした。
『うあぁぁ...そんなの嘘だ...』
青ざめた顔をしながら震えている姿はまるで捨て犬のようだった。
その犬にタオルをかけるかのようにゆっくりと顔にビニール袋をかぶせ、その上からガムテープを巻いていく。
山法師は震えながらウジのように身をくねらせたのち
息絶えた。
私はそっと彼の手に楓の指を握らせその場をあとにした。
『...一緒にいられて良かったね』
♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜
去り際にスマホの着信音が鳴り響いた。
カバンに入れたままにしていた楓のスマホだった。
【 着信:彼ぴっぴ3(使い捨て)】
帰り道に私はそのスマホを近くにあった汚いドブ川に投げ捨てた。
『映えるかしら』
『あなたのスマホ認証はどの指を使いますか?』