同族嫌悪
過ぎた過去より今を、前を向いて歩いていこう。
そう思えた矢先の出来事。
あれから数週間、
残りの誹謗中傷した奴達を探してもまだ見つからない。
『闇バイトでも雇えばよかったかしら』
『見つかると良いね』
神岡から差し出された珈琲を飲みつつ私はまだこの私怨に薪を焚べていた。
珈琲と真っ白なセーターが温かい。
『私の心も白く染めてくれないかしら...』
窓辺から雪化粧した街を見おろした。
『そう思うならもう探すのやめるかい?』
『嫌よ、やった側は忘れてるかもしれないけど
やられた側はずっと覚えてるもんなのよ』
暫くして神岡が買い物に出ている間に置き忘れていたスマホを興味本意で覗いてみると、どこかで見覚えのあるアカウント名とハートマークのアイコンがあった。
『possessive...』
...渚君を虐めてたアカウントだ。
視線を感じ振り向くと神岡が異常な笑顔で立っていた。
『...そんな怖い顔しないでよ、全部君のためなんだよ』
『おまえが...渚君を...』
今迄生きてきた中で一番の殺意を込めて神岡を睨んだ。
『全部君のために言葉を紡いできたのに喜んでくれないなんて編んであげたセーターに珈琲をかけられた気分だよ』
『おまえがあぁぁっ‼︎』
胸ぐらに掴みかかろうとするも男の力には到底かなうはずもなく両手を壁に強く押さえつけられた。
神岡は私の身体の匂いを嗅ぎながら語りだした。
『なんでかなぁ、こんなに君のために尽くしてるのに僕の物にならないのっておかしいよねぇ』
『私も歪んでるけどアンタもなかなかのモンだね...』
『折角あの男が死ぬようにしたのになんで僕の物にならないんだろうね...
僕はね、ずっと、ずぅっと前から君を見てきた。
由乃が幼稚園にいる時からずっとだよ。
一目惚れだった、初めて見た時天使だと思った。
欲しかった、ずっと欲しかった、欲しくてたまらなかったんだよ。
君の両親も殺して由乃に近づく奴を何人も殺して死ぬようにも仕向けてやっと僕のもとに来るようにしてきたのに由乃の中にはまだあの男がいる...
ほんと何故なんだろうね。
由乃も何人もの人を殺してやっと僕と同じ同類、
僕達こんなに似た者同士で相性良いはずなのにねぇぇ‼︎』
『同族嫌悪だよ‼︎』
声を荒げると同時に私は神岡の脇腹に膝蹴りを入れ怯ませると台所から刃物を取り出して刃先を向けた。
違和感。
その刃は異様に生臭く黒ずみ錆びていた。
『そろそろ由乃のことを理解できるのは僕しかいないのを理解してくれよ』
神岡は目を見開いたまま真顔で近づいてきた。
『その目...』
この時初めて殺そうとした相手に恐怖を感じた。
まとわりつく視線の嫌悪感と恐怖で身体中が震え刃先がブレる。
責めた。
こんな奴を信じてしまった自分を。
悔やんだ。
少しでも心を許してしまった自分を。
後悔した。
この男に身体を許してしまった自分を...
12/24私へのプレゼントはセーターだった。




