意志を感じた。
その意思は波を起こし、こちらに問いかける。
『なぜ自分を呼んだ』
「知らんよ。そもそも呼んでない。ただそっちがここに流れてきただけでしょうに」
不安定でいてしっかりと形のあるそれは、抗議するかのようにゆらゆらと揺れ動く。
どうやら私の返答が気に食わなかったらしい。そういった不満を乗せて波を打ち出してくる。
『あなたは神か』
「かみ?...あぁ、偶像崇拝の。君がそう思えばそうなんじゃないかな」
『自らは人間だと?』
「選択肢が二つしかないのかね。どうやら前の君は人だったようで」
『ならば、なぜその形をしている』
カタチ。言われて自分を見るが、正直よくわからない。
白くて黒く、形が有って無い。今の返答も向こうの波と同じ波長を返しているだけ。
目の前のソレはきっと、生前の景色を元に私を見ているのだろう。ソレは幻覚と呼べるもので、本当であり嘘の景色。
「知らんよ。君から見てそう見えたとしても私の形はそうではないかもしれない。自らの視界と同じものが常に相手も見ているのだと考えるのは、少々烏滸がましいと思うがね」
『...』
確かこれはニンゲンと尋ねていたか。彼方の方にそういった生物がいたことは知っている。きっとソレだったのだろう。
随分と愉快で楽しい知的生命体がいるものだと観たときは感心したものだ。
しかし、そうか。かの人間も含め波に乗る存在が私に気がつくなんていつぶりだろうか。ごく稀に流れ着くことはあったとしても、波を打ちつける個体はそれが初めてだろう。
「私は特に何かするつもりはないけど、選んだって意見が出るくらいだ。何かしたいんだろう?」
『...いいや、必要ない』
「テンセイ。なるほど、妙な知識がある。君らヒトは妙に輪廻や死後を信じる傾向があるようだ」
『何も言っていない』
「波は流れてきているよ」
妙な感性だ。記憶を持って文明の違う世界への移動。一体何がそこまで心踊るのだろうか。
死も生も等しく変わらず、魂なんてものは存在していないというのに。
「少し興味が湧いた。いいね、手伝ってあげよう」
『正気か?』
「君の提案だろう?ただ私も少し体験をしてみたいんだ。ここは暇だからね」
ソレを波から掬い出し、近づける。
これを、コレはどうみているのだろうか。
「いくつか体験しようじゃないか。何、ちょっとした暇つぶしにはなるだろうよ」




