買い物 1。
「アキラ様、気にする必要はないですよ」
「そうだぞ、別にあんた様が戦えなくても他の勇者や冒険者がいるからな。心配いらない」
2人に励まされているようだ。
特に戦えなくてもこの街では困らないようだし、俺はあまり気にしていないのだが。
「ところで戦えない冒険者や、勇者候補とかって何をしているんですか?」
「そんな勇者候補は聞いたことがないが、引退した冒険者でも簡単な依頼を受けて、稼ぎにしている人はいるぞ。戦いの指南役やら魔法を教えたり」
「ギルドにくる依頼がすべて戦いに関係するわけではないのですよ。普通のおつかい程度の依頼も多いです」
それはよかった。
完全にいらない扱いではないのかもしれない。
「とりあえず今日わかったところは、あんた様は前線に立って武器を振るうのには向いていないってことだ。ついでに魔法での援護もできないようだし、戦闘にはたぶん向いてないな」
「そうですね、確認する前に戦いにならなくてよかったです」
「まあ魔王との戦いももうすぐ終わるって話だ。それまでこの街でゆっくりしていればいいんじゃないか?」
「何もしなくても元の世界に戻れるんですかね」
ふと疑問がわいた。
何も達成せず勇者になっていなくても、誰とも合流せずとも帰れるのだろうか?
「まだ元の世界に帰ったという勇者様の話は聞いたことがないよな? マレインは聞いたことがあるか?」
「ええ。ギルドにいて聞いたことがないということは、おそらくまだいないのでしょう」
勇者候補として呼ばれた誰も帰っていないらしい。
初めの勇者候補が呼ばれ始めてからどのくらいたっているのだろう。
「初めの勇者候補はいつ頃現れたとかって知っていますか?」
「ああ、13、4年前くらいかな。俺がまだここで店を持つ前に何人かあったことがある」
「そのくらいだったと聞いています。私はアキラ様以外には実際にあったことはないですが」
ということは13年前後は魔王と戦っているということか。
無数の勇者候補が呼ばれ散っていったのだろうか。
そう考えるとなにか申し訳ない気がしてくる。
だが僻地の街に1人では今更勇者たちに合流するのも難しい。
「もう1度言いますよ、アキラ様は気にする必要はないのです。きっと他の勇者様がすべてを終わらせてくれて、あなたは元の世界に返してもらえます」
顔に出ていたのだろうか、マレインに念を押される。
俺に無理や無茶はしなくていいと言ってくれた。
とてもありがたいことだ。
が、普通はある程度勇者になるものに期待するものじゃないのか?
「なんで何もできないような俺にそんなことを言ってくれるんですか? もっと酷いことを言われても不思議じゃないと思うんですが」
「おいおいアキラ様は真面目がすぎるぜ。だいたい普通に暮らしていたところを急に拉致同然に呼び出されて、世界をなんとかしろって言われて報酬があったとしても、命を懸けて戦うなんてそうできることじゃないだろ? あんた様たちの若い勇者様たちの感覚がおかしいんだよ。たとえ能力があったとしても。少なくとも俺は何もできない勇者候補様でも気にしないぜ」
マレインを見ると頷いてくれた。
たしかに見ず知らずの世界を急に救え、などゲームではありがちだがガリバのいうことはもっともだ。
俺はここをゲームの世界で、みんなには活躍しなくてはいけないと思われている、と考えていたが勘違いしていたのかもしれない。
ガリバの言葉を聞いてとても気が楽になった。