武器屋。
しばらく歩いただろうか、武器と書かれた看板の下がった大きな店にマレインについて入る。
入口のドアを開けるとチリンチリンと鈴のような音がした。
店の奥から店主であろう体格の良い男が出てくる。
背丈はともかく腕は俺の倍くらいの太さだ。
「こんにちは、ガリバさん。勇者候補様に武器を見繕っていただきたいのですが」
「マレインこんにちは。その方が勇者候補様なのかい?」
俺は武器屋の中をぐるっと眺めていた。
こういう場所特有の鉄の匂いがする、町工場と同じと表現して正しいかわからないが。
木製のラックには剣や槍、様々な武器や盾などが剥き出しで並んでいる。
木製ラックには値札もついている。
値段は・・・・・・おおむね大銅貨5枚前後、高いようにも見えるが戦場では武器や防具の価値は命の価値だ。
値段的には練習用にも見える。
ガラスのケースにはいかにも高そうな深紅の鞘に金の握りの剣が入っていた。
レンガの建屋の天井横などはガラスで採光している。食酒所よりは暗いが晴れの日は光がよく入ってきて良い見栄えなのだろう。
あいにく今日は曇りだが。
「この街が初めの街の勇者候補様ってのは初めてじゃないか?」
「そうですね。フマルも喜んでいましたよ。ただ・・・どうやら勇者候補様であるアキラ様は能力をいただいていないようなのです」
「そんなことあるのか?なんのために来てくださったのかわからんじゃないか」
「まあいいか。もう魔王も討伐目前なんだろう?」
「他の冒険者からは私たちもそう聞いていますが。アキラ様、こちらに来ていただけますか?」
武器をしげしげと観察していたが、マレインに呼ばれたのでそちらへ向かう。
「こちら店主のガリバ様です。アキラ様の使えそうな武器を探してくれるそうです」
「ガリバだ。よろしくな」
「よろしくお願いします」
俺は少し頭を下げる。
握手はしなくていいようだ。
もっともガリバ相手だと手が砕けてしまいそうだったから助かった。
ガリバは年のくらいは40くらいだろうか、俺よりは1周りくらい上に見える。
髪の毛は薄目の栗毛、同じく栗色の目だった。
「やっぱり勇者候補様ってのはほぼみんな黒色の毛の色なんだな。それに見てきたみんな線が細い。その腕で剣を振るえるのかってくらいだ」
その言葉を聞いて、おそらくこの世界に来ているほぼ全員が日本人なのではないだろうかと思った。
いろいろな世界から呼ばれているのであれば黒髪率が高いのは偶然とは思えない。
能力で強化されていれば元の世界の見た目のまま力が強くなるようだ。
「アキラ様の冒険者カードを見せていただけますか?」
「あ。すいません。自分の服のポケットに入ったままです」
「そうですか。あれは身分を証明するものでもあるのでこれからはできるだけ持ち歩くようにしてください」
「気を付けます」
うっかりしていた。
あれは俺の身分を証明できる大切なものらしい。
「ってことは能力の数値は分からないか?」
「一応覚えていますけど、たしか筋力は2でした」
「2! 女の魔法使いでもあり得る数値だぞ!?」
俺の筋力は頭脳派の女性並みに非力らしい。
ただゲームなどでは強化した武器で殴る魔法使いがいる場合もある。
この世界では珍しいのかもしれないが。
「うーん2ねぇ。男だし、身長もある。とりあえずこの辺なんてどうだ?ブロードソード」
ガリバの持ってきたのは金属製のブロードソードだった。
柄を渡され俺は持ってみる、が
重たい、非常に重たい。
体育の授業で持ったことのある金属バットより圧倒的に重たい。
剣先が地面につかないようにして持つのがやっとだ。
こんなものを相手の頭に振り上げて切りつけることは、現代日本に生きている人間のほとんどが出来っこないだろう。
「無理か。じゃあこっちはどうだ?」
なんとか剣をガリバへ返して次の武器を受け取る。
さっきのブロードソードよりは先へ行くほど細身だ、長さはさほど変わらない。
これも受け取った時点で無理そうだった。
両手で構えるのがやっとという感じ。
「それは片手剣なんだけどな? 槍なら両手持ちだからいけそうか?」
俺は剣を返し、槍を受け取る。
長さは1mくらい。
バランスが偏っており木の持ち手と比べて、金属の穂先の部分がめちゃくちゃ重たい。
これも穂先が地面すれすれに保持する感じだ。
「ちょっと素振りしてみな」
両手で持って突いてみる。
穂先の重さにつられて体が思いっきり持っていかれて、転ぶ寸前だった。
「無理だ。少なくともこの勇者候補様は前線向きじゃねえな」
そうだろうな、普通の現代人にはだいたい無理だろう。
「魔力はどのくらいなんだ?」
「たしか4です」
「まあ魔法使いになれなくはないってところだな」
「それが、アイフェさんに見てもらったそうなのですが魔力は分からなかったそうです」
「ってことは即戦力ではない感じなのか・・・・・・」
やはり俺は武器を持つこともできないらしい。