明日への光。
クロと手をつないで光の中を歩く、するとこの世界で初めに会った顔がいた。
「お疲れ様でした。そしてありがとうございました、勇者様」
笑顔だとずいぶんと女性的に見える。
彼女がこの異世界へ呼んだ張本人、運命を司る女神ゴースだった。
「まったくだ。長かったよ、力もとっとと使ってみたかったしな」
「でも最終的にあなたの願いは叶ったし、私の目的も達成されました」
さらにゴースと並んで3人でゆっくり歩き始める。
まだ道は長そうだ。
「せっかくクロもいるのでアキラのことを全部振り返ってあげましょうか」
「そうだな。まずは俺が呼ばれた理由から聞かせてくれないか?」
「あなたを呼んだ理由は、日常に退屈していて、それでいて欲があり、分別のある人間、かつ秘めた能力がある。ここから魔王を倒さない結果を選ぶ人間を探してあなたに行きつきました。
一番の問題は魔王を倒さないこと。大抵は魔王を倒してしまって帰れなくなる結果が見えていたので、あなたたちも私たちも希望がかなわなくなってしまうのです」
そんな理由だったのか。
「そういえば、あなたの選んだ3つの願いは嫁、金、幸福でしたね」
「にゃに! にゃあがアキラと一緒になるのは決まってたのにゃ!?」
「クロ、違いますよ。結果的にそうなってしまいましたが。本当は出会う全員の女性と可能性があったのです。それは伝えてありました。まあアキラのことですから、決められずに一番積極性のあるクロになってしまったみたいですが」
「うるさいな。クロが好きなんだよ」
クロの頭を撫でてやる。
「にゃらいいのにゃ!」
確かにそういわれていたのだ。
なので実際アイフェやマレインにはアプローチしようか迷った時もあった。
が、悲しいかな奥手すぎた俺は何もできなかったのだ。
少なくともお金くらいないとダメかな~とか思って。
「能力がにゃいように見えてたのはなんでにゃ? にゃあもカードは見たけど普通より低いっぽかったにゃ」
「あれは私が細工をしたものなのですよ。1ポイントが1、2ポイントが2ではなく、2は10、3は100だったのです」
「これな」
布袋からギルドカードを取り出す。
魔力は4ポイント、つまり1000だ。高いなんてもんじゃない。
そもそも2ですら10なので、筋力も隠すのに苦労していた。
なにせ、高魔力と言われるアイフェが9だったのだ。
実際アイフェに触られたときに体が高魔力にさらされたためか、反撃しようとして驚いたのだ。
瞬時に隠したが。
「カードには書いていないですが頑健さも上がっているし、夜目も効くはずです」
「つまり筋力10、知力10、魔力1000、幸運100だったにゃ!?」
「飯の驕りのじゃんけんやコイントスも全勝だったのはそのせいだ」
「にゃあ! じゃあアキラは勝つのわかっててにゃあとのじゃんけんやってたのにゃあ!」
「いいじゃないか。この後は公平になるし、なんなら全部驕りだ」
ダンとのコイントスも、ボッチャも負けるはずがなかった。
どうやっても俺の望むほうに転ぶのだ。
「ラベンは魔王側の人間だったよな? 初対面の俺の名前を知っているはずはないし」
「ええ、そうでしたよ。だから能力がある、と悟られた時点であなたや、周りの者ごと消そうとしたはずです」
「アイフェには気づかれていたのかな?」
「あの子はアキラから切り出さない限りは魔力の話題はしないように考えていたようです」
ということは、異世界で俺が勇者たる能力があると気づいていたのはアイフェだけか。
ああ見えて口が堅いアイフェだったらしい。
「串焼き屋を手伝わずに、強大な魔力をアイフェに打ち明けた場合は、今あの子がアキラの隣にいたことでしょう」
「にゃあは別に、アキラが他の女とくっついても嫉妬にゃんかしにゃいにゃ」
些細なことでもないが、それで運命は分岐していたらしい。
「天気が気になって教会へ行けばマイヤに、雪の日にぬいぐるみの話題を挙げていればマレインに、もっとあなたのいた世界のことを詳しく話せばフマルに、そうやって隣にいる方は変わっていたかもしれません」
(このあと魔王が神となり、統治する世界で一番辛い思いをするであろう方がクロでした)
ゴースは頭に直接語りかけてくる。
(他の方は偽りの平和の中暮らしていきますが、敗北した魔王軍側ということになってしまうクロさんの未来は酷いものです)
「時がくるまで何もするな、知らない声にただそう言われて耐えられる人間はそうはいません。だからこそ、あなたは最低限の犠牲で最後に勇者となりました」
「俺がさっき倒したのが魔王軍の幹部すべてだったんだろう?」
「そうですね。魔王軍は勇者をつぎつぎとすべて倒して、勇者に姿を変化させた魔物を街へ送りこみ、戦果を挙げたようにみせていました。あなた以外の勇者はすべて偽物にすり替わっていたのです」
めちゃくちゃ狡猾な魔王軍だな。
すべてを掌握するまで負けを演じていたとは。
「今頃、化けた勇者たちは上の者がいなくなったことで困惑しているでしょうね」
そりゃそうだろう、祝勝会へ行ったはずの上司が全滅しているんだから。
「それにしても勇者を捕らえて、祝勝会で見世物にするなんて。魔物の考えることは本当に理解しかねます」
「魔王はそれほど乗り気じゃなかった気がするが?」
「部下の考えを無碍にするほど、魔王も狭量ではなかったということです。それを逆手にとってアキラを召喚したのですが、私の読みは大正解でした」
暴君でないのを女神に突かれて負ける、こんな話初めて聞いたな。
俺はいいように使われただけか。
それでもいい、どうせなら俺はちゃんと元の日本で生きていきたい。
「さて、そろそろお別れのときが来たようです」
「そうみたいだな」
この先はひと際光が強くなっている。
「もうあの世界のことは気にする必要はありません。少しゴタゴタしますが、いずれ平穏になるでしょう」
「あなたの活躍は誰にも知られることなく去ることになってしまいますが・・・・・・」
「別にいいよ。連れて帰るクロがあの世界にいた証明だ」
もしかしたらアイフェが気づくかもしれないが。
もうあちらへの別れは済んでいるつもりだ。
「クロもいいのですね?」
「いいのにゃ。どうせアキラに会ったときににゃあは死んだようなものだからにゃ」
「では・・・・・・これからの2人の生活に幸福を、どんな困難もあなたたちにはどうということはありません。女神の私が保証します」
「ありがとう」
異世界でも感謝の言葉ばかりつかっていたな。
それだけ周りが優しかった。
そうして俺たちは光へと歩みだした。




