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バリン、ガキンという大きな音とともに一気に意識がはっきりする。
足元には何か機械のようなものが砕けて落ちている。
俺の横には真っ黒な特大モニターのようなものがあった。
今まで俺の見ていた虚構の現実はこれに映し出されていたのだろう。
周りには見渡す限り現実では見たこともない生き物がたくさんいる。
緑色の肌をした2mくらいの筋骨隆々とした者、青白い肌の細い体格の者、大柄な直立した豚の顔を持つ者などなど。
パーティ会場のようで丸テーブルに食べ物やと飲み物などが見える。
じっと突っ立ている魔物、そのほとんどが人型で全員が俺のことを見ていた。
そいつらが動き出すのを待たずに俺は右手に魔力を込めて刃を作り出して薙ぎ払った。
「うおらぁー!」
俺は勢いに任せて思い切り刃を振るう。
極大の魔力の剣、その軌跡に糸を引くように光波が飛ぶ。
とにかく見える奴らをせん滅することしか頭になかった。
その一閃で3割ほどの魔物が、真っ二つに切れて塵となって消え去る。
右手の刃は出したまま、左手の掌に魔力を込め魔力を散弾のようにして辺りに打ち出しまくる。
当たった者の体に風穴が空き、苦しみながら塵へと帰る。
さらに敵の数を8割ほど減らした。
さっと辺りを見渡し、頭と体に何か装置がついて寝かされているクロを見つけて、右手の刃で払って装置を破壊した。刃がクロを傷付けることはない。
ようやく事態に頭が追い付いたのか、魔物たちが騒ぎ出す。
「アイツをはやく殺せ!」
一番奥にいる大柄で頭から2本の角を生やしたやつが怒声をあげると、残っていた魔物がこちらへの攻撃をしてくる。
飛んできた魔力の玉を左手ではじいて、クロに向き直りパッと両手で魔力のシールドを張ってやる。
これでクロは攻撃に巻き込まれることはないだろう。
腰の剣を抜いてとびかかってきた一本角のやつを振り向いて右手の刃で逆袈裟切り、そいつは倒れて塵になる。
近寄ってきた竜頭のやつが大きく息を吸った後、ゴゥと口から炎を吐いてくる。
「!!」
めちゃくちゃ熱いが俺の体を焼き尽くすことはなかった。
俺は左腕で目を隠しながらそのままそいつに突撃する。
刃で一突きするとそいつは膝から崩れ落ちて塵になる。
今度は奥にいるやつから大きな魔力の玉がくるようだ。
同時に斜め前にいた浅黒い肌をした長耳から振りかぶって料理用のナイフが飛んでくる。
先に来る魔力の玉は放った奴にはじき返して倒したが、ナイフはもろに俺の腹に突き刺さった、かに見えたが少し血が出ただけだった。
「なに!」
ナイフを投げたやつは流石に足止めくらいにはなったと思ったのだろう。
俺は一気に距離を詰めて、右手の刃で切ってそいつも塵に返した。
残ったのは一番奥にいた大柄の2本角だけだ。
こいつは倒すわけにはいかない。
「手下はもういない。降参だ。儂でもそんな力には到底かなわん」
そいつは両手を挙げて首を振る。
「ここに誓え、本当に俺の勝ちでいいんだな?」
「ああ、魔王の言うことなぞ信じられんかもしれないが儂の負けで、お前の勝ちだ」
俺は「ふうぅ~」と息を吐き全身の力を抜いて魔力を収める。
不意打ちの可能性も捨てきれないが、もういい。
やれることはやったのだ。
踵を返して寝かされているクロのもとへ向かう。
クロは目を覚ましていて、お腹を押さえて泣いている。
「にゃ、赤ちゃんがいるにゃ全部だめにゃと思ってたのに・・・・」
と、
クロを抱き寄せて魔王に向き直る。
魔王はこちらによって来ていた。
「お前は無能力では無かったのか? ラベンからの報告はほぼ一般人と聞いていたが、その魔力や強靭さは明らかに勇者のものだ。しかも魔力は桁違いの」
「ご主人やっぱり勇者だったにゃ!」
「俺は無能力ではなかったんだ。この世界に来た初めから」
「そうだったか。やはり運命を司る女神に呼ばれたことはある。儂のところに来るよりも、まんまと儂がお前の前に引きずりだされるとはな」
魔王が天を仰いでいた。
こんな負け方は予想だにしていなかったのだろう。
何せ魔王は、神も、呼ばれた勇者も俺以外はすべて倒したのだ。
最後の勇者候補として、無能力で、偽物の現実世界でクロとの不幸を見世物にされた俺以外は。
「それよりも俺とクロを現実世界に返して、お前がこの世界の神になれ、それで俺は満足だ」
「そこまでの力は儂にはないぞ。」
「俺の魔力はお前に渡す、それで俺を元の世界に返してくれ。現代日本に帰って、異世界でできた妻と幸せに暮らす、それが俺の初めの願いだ」
「にゃ? ご主人の願いってゴース様に伝える前に地上に来たんじゃにゃいの?」
「長いしそれは戻ってからでも話すよクロ」
俺は右手を魔王に差し出す。
魔王はそれを握り返す。
俺は魔王に魔力をすべて渡す、魔力のタンクのような感覚のものも全部。
俺の魔力がカラになったところで手を放す。
「儂が訊くのもおかしいが、本当に儂が世界を収めていいのか? 魔王なんだぞ」
「実は、俺は呼ばれたときにこの世界を魔王の手から救う約束はしていないんだ。女神もそういっていた、もう負けるのは分かっていたんだろう」
「わかった。お前ら人間が住むにはつらい世界になるかもしれないが儂は人間に負けた身、善処はしよう」
「ありがとう」
「では元の世界への門を開けるぞ」
そういうと魔王は神妙な面持ちで両手をかざすと光に包まれた道が現れる。
「それじゃあこれで」
「ばいばいにゃ」
まさか魔王と友達みたいなやりとりをして帰るのも普通ではないのだろうが、これからは普通ではないクロと暮らしていくのだ。魔王との別れが異世界最後でもよい思い出だろう。




