新しい生活へ
帰ってしばらくすると石渡から連絡が入ってくる。
ちょうど実家から10分かからないような場所に空いている部屋があるそうだ。
明日の夕方に話したいとのことだった。
「クロ、明日の夕方、俺はちょっと出かけるけど一人で大丈夫か?」
「部屋にいればいいんにゃ? ご飯はどうするにゃ?」
「多分飯は食べるんじゃないかな、クロの分は買って帰ってくるよ。流石にまだ1人でみんなと食べるのはきついだろ」
「それは助かるにゃ。アキラがいにゃいとにゃに話していいかわからにゃいし」
じゃあ明日は石渡に会って飯を買って帰ればいいんだな。
時間は飛んで、次の日の夕方、
俺は石渡と会って、マンションの1室を借りることになった。
もちろんクロの夕飯も忘れずに買って帰る。
ことは、とんとん拍子に進んでマンションに引っ越すことになった。
といっても、ほとんどの物はそのまま実家へ置いたままなのだが。
何でも、前の人が処分が面倒だからという理由で、生活に必要な家電はそのまま置いてあるそうだ。
初期の金がかからないのは助かるのでよかった。
「ついに2人だけの家にゃ」
「そうだな」
3LDKのマンションだ、2人では広すぎるくらいだと思う。
今はともかく、子供が生まれる予定ではあるからどうなるかわからんが。
「ちょっと川沿いを散歩しに行かないか?」
「いいにゃ」
2人揃って近くの川の河川敷まで行く。
もうすぐ年越しだ。寒くなってきている河川敷には人は見当たらなかった。
「誰もいにゃいにゃ」
世界で2人だけな気がする空間だ。
クロの横顔が目に焼き付く。
俺はこの異世界から来た彼女が好きだ、たぶんこれからもずっと。
時間は矢のようにすぎる。
まるで時計を早回ししたように。
クロの出産が近づいていた。
病院へ連れて行くのも面倒事になりそうなので、訳あり用の金を握らせた医者に自宅出産にしてもらった。
1部屋丸ごと出産用の機器を置いて備えている。
部屋には医者と産婆、クロの3人だ。
俺はリビングで待機している。
クロの荒い息遣いが聴こえる。
もう生まれるのだろうか。
長い時間が経ったように思える。
凄い勢いと共にドアが開き、血相を変えた産婆が部屋から出てくる。
「旦那さん、大変なんです!!」
どうしたのだろう?
「それが・・・・・・・・・・ 息をしていないんです」
なんだって?
見ればヘソの緒のついた生まれてきたであろう、猫耳の赤ん坊は泣いていない。
息をしていないようだった。
俺の顔を見て医者は首を振る。
そんなことがあっていいのか?
俺は目の前の出来事が信じられなくて、泣きながら近くにあった箪笥に頭を強く打ち込む。
「うあぁあああぁぁーーー!!!!」
1回、2回、3回、・・・・・・何度も頭を打ち付ける。
血が止まらない、それでも頭を打ち付け続ける。
医者の静止も振り切り打ち付ける。
痛みの限界で意識が無くなる。
その瞬間だった。




