普通の町2
「あれはなんにゃ?」
自販機を指さしている。
「飲み物が売ってる、無人の販売機だよ」
家ではお茶と水ばかりだ、たまには他の飲み物もいいだろう。
小銭入れから100円を出す。
「これ、にゃかに誰もいにゃいんにゃ?」
コンコン側面を叩いている。
「いないよ、どれが飲みたい?」
100円を入れながら聞く。
「ん~、これにゃ」
オレンジジュースだ。
スイッチを押すとガコンと缶が出てくる。
いっしょにお釣りもだ。
缶を取り出す。
「今飲んでみるか?」
「飲むにゃ」
缶を開けてクロに渡してやる。
クロは一口飲んで、
「めちゃくちゃ甘いにゃ、前に飲んだ茶色いやつのが好きにゃあ」
オレンジジュースといっても様々だから甘味料多めのやつだったようだ。
俺はもう100円出してミルクコーヒーを買う。
「じゃあこっち飲むか?」
「いいのにゃ?」
「そっちの飲みかけと交換でいいよ」
そうしてクロのオレンジジュースをもらう。
2人でジュースを飲みながらゆっくり歩いていく。
ジュースを飲み終わり、着いた場所は15年ほど前に通っていた中学校の近くだった。
いつの間にか踏切もなくなり、何もなかった周りはショールーム、レンタル倉庫、コンビニが増えていた。
卒業以来、全く来なくなったのだがずいぶんと変わったものだ。
「そこはにゃにしているのにゃあ?」
見ると中学の校庭でバスケットボールをやっている。
体育の授業か何かだろう。
「学校だよ。みんなで勉強とかするんだ」
「? 勉強は家でするんじゃにゃいのか?」
「ある程度の年齢になると、こういう場所にみんなで集まって教わるんだよ」
「にゃんだか窮屈そうだにゃあ、教えてくれるのはありがたいとは思うんにゃけど。にゃあみたいに嫌われてたらつまらないにゃ」
まあそうだ、俺も学校が嫌いだった。
何をやるにもみんなでやる、高校まではまるでやる気が出なかった。
大学は自由に好きな授業が受けられるし、サボるのも自由で肌にあっていた。
興味のあるほぼ全科目で満点を取るくらいには。
必要なものだけ自分で取捨選択できるほうが楽だった。
「あっちには学ぶ場所はなかったのか?」
「貴族は家に教師を呼ぶけどにゃ。にゃあも読み書きと言葉遣いくらいは教わったにゃ。たぶん普通の家じゃあ親兄弟から教わるけど、働きづめの家じゃあ無理にゃ」
異世界では勉強も金が無ければできない。日本は恵まれているほうなのだろう。
すべてまとめて、個人を無視した方針がいいのかは俺にはわからないけど。
「まあ、10年前くらいはこの肌に生まれたのが運の尽きだと思ったにゃ。あんにゃに勉強して、そろそろいいところに行けるかにゃ、と思った矢先だったにゃ」
「一気に貧民以下に転落にゃ。幸いというべきか、にゃあは殺されはしにゃかったけど」
「にゃんとか働き口を探してはやめさせられて数年、もう疲れてたにゃ」
「でも今はこうして別の世界でちゃんと暮らせているにゃ。それは女神様にもアキラにも感謝にゃあ」
全然そんな感じがしないけど、クロは凄まじい半生を送っているんだよな。
「これから先は何にも辛いことはないよ。たぶん」
適当な自販機横のゴミ箱に空き缶を2つ入れて、俺たちは帰路をたどる。
俺たちには辛いことはない、これから普通の日常を送っていくのだから。




