普通の就寝
「髪の毛が乾いてるにゃ。ホントに魔法のない世界とは思えにゃいにゃ」
「俺はこれに慣れてるから、あっちの生活に驚いてたよ」
あとは歯を磨けば寝ていいか。
クロの髪を乾かし終えて、タオルとドライヤーをもち2人で脱衣所兼洗面所へ降りる。
お客用の新しい歯ブラシを出してやる。
「ほい、歯ブラシ」
クロは渡した歯ブラシの毛をつついて、
「すごい量の毛にゃ、しかも固いにゃ。これにゃんの毛にゃあ?」
たぶんこの毛、プラスチックだよな?
「たぶん作られたやつ。ここでは本物より安いんだよ」
「はあ。もうにゃにも気にしにゃいにゃ。使えるものは使うでいくのにゃあ」
「そうしたほうがいいな」
俺はブラシに歯磨き粉をつける。
クロのにもつけてやる。
シャコシャコ、クロも真似してシャコシャコ。
目を丸くしている。
何か言おうとしているが、口が泡でいっぱいでやめたようだ。
コップに水を入れて渡してやる。
「息ができにゃくにゃるかと思ったにゃ」
「慣れてくれ、すっきりしたろう?」
「スースーするにゃあ」
よし、これで寝る準備ができた。
「あとは寝ればいい。1日の流れはこんな感じだ。大丈夫そうか?」
「わからにゃくにゃったら聞くにゃあ」
部屋へ戻るときに廊下でちょうど弟に会った。
「しばらく彼女が来てるから」
「俺は昼間寝てるんだから静かにしてくれ、これから仕事だ」
「善処する」
短いやり取りだけする。
ロン毛に切れ長の目に無精ひげ、そんな見た目の険しい弟だ。
俺たちは部屋へ戻り寝る準備をする。
今日はもう何もしなくていいだろう。
「ベッドを使っていいよ」
「そうするにゃあ」
俺がいつも寝ている高級マットレス付きのベッドだ、そこにクロは寝る。
異世界の藁でできたベッドよりはるかに快適だと思う。
俺は適当に床に敷き布団を敷いて枕を設置する。
手元のリモコンで電気を消す。
とりあえず明日のことは明日考えればいい、少なくとも出産までには家はなんとかしよう。
「おやすみ」
もうクロは寝たらしい、規則正しい寝息が聞こえる。
まだ21時と早いが、初めての世界は疲れるものだ。
これからクロとの生活が始まる。
なるようになる、異世界でもそうしてきた。
ぼんやりと先を考えながら眠りに落ちた。




