異世界の日常的な朝食。
食酒所へ着いた。
木のスイングドアを開けて食酒所へマレインと2人で中に入る。
「勝手に座っていいんですか?」
「はい。テーブル席に座りましょう」
ほどなくウエイターがやってくる。
「ご注文は?」
「アキラ様は食べられないもの、苦手なものなどありますか? 軽めの朝食セットを頼もうと思っているのですが?」
「特に好き嫌いはないですね。強いていうなら肉が好きかな。マレインさんにお任せします」
「では朝食セットのウインナーを2つお願いします」
「わかりました」
ウエイターが注文を取って去っていく。
話題がない。とりあえず適当な話を振ってみるか。
「これから俺は何をすればいいかとか聞いていますかね? たぶん俺は無能力の勇者候補なんだけど」
「はい。能力がなさそう、というのは昨日アキラ様と別れた後にラベンさんとフマルに聞きました」
「そうですか」
「今日の朝に聞きましたが、アキラ様のことをあまり公にしてもいいことがなさそうなので勇者候補様が来た、などの発表等はしないことになったみたいです」
現状、特に俺は必要とされていないらしい。
民衆をむやみに盛り上げたり盛り下げたりはしない、ということなんだろう。
「今日は一応、武器を持ってもらおうかという話になっています。なんでも武器を持って能力が発揮される可能性もゼロではないとのことで」
「ちなみにアキラ様は剣や槍、斧などを扱った経験はあるのですか?」
「まるで無い。というか俺のいた世界で持ったことのある人間は多くないと思う」
「・・・これは望み薄かもしれないですね」
「ですね」
と、話しをしていると食事が運ばれてきた。
木の器に金属のフォークとスプーン、昨日と同じだ。
ウインナー2本に目玉焼きに豆のスープにパン、それに350mlくらいのガラス瓶のボトルに入った水。
「「いただきます」」
ウインナーは長さ10㎝くらいでぷりぷりとしてとても美味しい。
スープに浸したパンと一緒だとなおさらだ。
固焼きの目玉焼きの味付けは塩だけ。
胡椒やソースなどがないとすこし物足りないと思った。
全部少しずつ口に入れていく。
普通に食事をしていたつもりだったがマレインにじっと見られていた。
「何か変ですか?」
「いえ。そんなにいろいろ次々と口に入れて食べる方は初めて見たので」
マレインはパンに目玉焼きを乗せて食べていた。
そういえば三角食べは日本特有の食べ方なのだったか。
あまりに日常的にやっていたから世界基準では珍しいことを全く気にしたことがなかった。
「マナー上で目立っていたりしますか? 失礼な食べ方だということならやめるよう努力しますけど」
「いいえ。大丈夫だと思います、ただ変わった方だなと思われるくらいでしょうか」
自分の世界の常識は異世界ですら当然通用しないのだなとつくづく思った。
食事を終え、ボトルの水を飲み干す。
「「ごちそうさまでした」」
「食事はどうでしたか? 男性には物足りない量だったかもしれませんが」
「美味しかったです。特にウインナーが」
「それはよかったです」
「このあとなのですが、冒険者ギルドに寄ってから武器屋へ向かおうかと。あとは、たしかアキラ様の部屋の箪笥が虫によってダメになってしまって、処分したので替えを注文しにいきたいと思っています」
「はい、わかりました。今日はマレインさんがついてきてくれるんですか?」
「その予定です」
「小銭を入れる袋と、なにか羽織るものが欲しいかなと思っているのですが?」
「では服屋にも行きましょう。どちらもそこで手に入ります」
マレインと実質買い物デートのような感じになりそうだ。