普通の料理
「何? アキラに彼女? しかも子供ができてる? はぁ。まあなっちゃったことは仕方ないだろうな」
「アキラのことよろしくね、クロちゃん」
「とりあえず夜はカレーです。作り始めるから!」
俺が無理やり締めてカレー作りに移行する。
「クロは料理できるか?」
「微妙です、見ててもいいですか?」
「いいよ」
着替えてきた母と俺の2人でカレーをつくる。
米を炊いて、肉と野菜をいためてから水を入れる。
煮立ってきたらアクを取り、ローレルの葉を1枚入れて1分混ぜて葉を取り出す。
20分温め、少し冷やしてからルーを割り入れる。そして再加熱で完成。
全部で1時間くらい。
「クロちゃんは外国の人だよね?」
「ええ、そうなんです」
「国名はどこ?」
「多分わからないと思いますよ。テブルというところです」
「知らないな~」
料理しているあいだ、父とそんなやりとりをしているクロ
「お祝いだし酒を開けるか!」
クロの目が光る。
そういえば酒好きなんだったな。
だが、
「クロちゃん飲んじゃまずいでしょ妊婦なんだから」
という母の言葉に止められた。
露骨にがっかりするクロ。
「子供が生まれてもしばらくは飲めないぞ~」
ヤバい、煽りすぎた。クロが若干涙目だ。
「まあ祝いの席で飲まないのもアレだしな、クロの国では飲んでも良かったみたいだし、ちょっっっと
ならいいと思うぞ」
俺を見つめる目が怖い。フォローしてやったのに。
表情がコロコロ変わって忙しいやつだ。
父は日本酒の瓶を開け始める。
母がコップを出していく。
3人は普通の、俺とクロにはおちょこより大きめのグラスだ。
「はいどうぞ」
父が全員のグラスに注いでいく。
この家で俺以外はまあまあ飲めるのだ。
透明な酒を見るのが初めてのクロは、こちらを疑惑の目で見てくる。
見た目は水と変わらないからな。
米が炊けたのでカレーを全員分よそって持っていく、皿にスプーンを添えて。
福神漬けとか買い忘れたな、まあいいか。
「いただきます」
「「いただきます」」
祖父の言葉と共にみんな食べ始める。
俺は冷蔵庫から2Lのウーロン茶をテーブルに持ってくる。
クロも問題なくカレーを食べている。
うちのカレーは甘口と中辛のルーを半分ずつ入れているから辛くはないはずだ。
「母さん、お客用の布団とかあったよな?」
「あるよ」
「悪いんだけど、明日あたりにクロ用の下着とか買ってくるの頼める? 流石に俺じゃあどれかわからん」
「いいよ、買っといてあげる」
助かった、特に深く突っ込まれない。
少し口に酒を含んでみる。
やっぱり酒は苦手だ。
ちらとクロに目をやると優雅に酒に口を付けている。
酒瓶が部屋に転がっていたとは思えない飲み方だ。
「すっきりしていて飲みやすいお酒ですね」
「クロちゃん飲めるねえ。うちのアキラは酒に弱いから」
異世界の酒はウイスキーとかワインだったから下戸の俺に飲めるはずはない。
クロはそれを常飲していたのだから相当強いのだろう。
「クロちゃんはしばらくは家にいるの?」
「うん、ちょっと住んでたところが事件にあったらしくて。何かあると困るから来てもらった。俺も秘密にしておくつもりはなかったんだけど」
「ふうん」
「ごちそうさま、クロを風呂に案内してくるよ」
食べ終わっているクロを連れて風呂場へ行く。




