普通の生活
洗濯機へ向かい、籠に洗濯物を入れる。
2人で2階の部屋へ戻り、俺はベランダに洗濯物を干しに出る。
クロも真似して一緒に干してくれる。
ちょうどサンダルも2人分あった。
「にゃあ、あれはにゃんだったんにゃ?」
「どれだ? 全部か?」
「まあ、そうにゃ」
当然だ、すべてが初めてなのだから。
「まずは昼飯、あれは米っていう主食だ。上にのってた具は生のエビ、イカ、あ~魚みたいなもん、とか、キュウリとか」
異世界生活でエビは見たことなかったな、イカも。
たぶん海が近くになかったからだろう。
「魚を生で食べたのははじめてにゃけど、最高においしいにゃ」
「あれは鮮度がよくないと食べられないから、あっちじゃあ出てこないだろうな」
ハンガーに服を引っかけて物干しざおへ干す。
飛ばされないように洗濯バサミで補強する。
「あとはお茶か?」
「苦かったにゃあ」
「あれもこの国では普通の飲み物だから慣れてくれ。水は水道のを飲める」
タオルも間隔を開けるようにして干す。
並んで洗濯物を干していると熟練した夫婦のようだな。
実際には会って数か月しか経っていないが、ずっと一緒だった気がしてくる。
そう感じるくらいには相性がいいのだろう。
「にゃあは水でいいのにゃ」
「今度2種類水を飲ませるから、飲みなれているほうを飲めばいいよ」
異世界の水が軟水か硬水かは俺には判断しかねる。
クロの飲みなれたほうを買えばいいだろう。
俺も一時期の流行りで、硬水を買って飲んだりしてみたことがあった。
健康にいいとかで。ただ、体に合わなくてやめたが。
「あとは2本の棒にゃ、あれで食べるのは難しすぎにゃいか?」
「家にいるときはいいけど、もし外出するようになれば箸が基本だぞ。練習できるときにしておいたほうがいいな」
洗濯物を干し終わる。
「籠を置いてくるよ」
「にゃあ」
籠を置いて部屋へ戻ると、クロはモニターとテレビをしげしげと眺めていた。
部屋の電気をつけて、テレビをリモコンでつける。映像と音声が流れた瞬間、クロはとてもびっくりしていた。
耳と尻尾がそれはもうすごい挙動をしていた。
「驚かせるにゃ! 死ぬかと思ったにゃ!」
「悪い、一応あの世界にもモニターみたいのあっただろ?」
「にゃあみたいな貧民が知るはずないにゃあ!」
クロをなだめる。
弟は夜勤して部屋で寝ている。
防音室でもないし静かにしてやろう。




