日常に帰った
暗転から目が覚める。ベッドから半身くらい落ちかけていた。
右手側が暖かい、クロがいた。
猫耳に尻尾の生えた獣人の。
見てわかるくらいには腹が膨らんでいる。
部屋は異世界へ行く前の俺の部屋だった。
ずいぶん長い間異世界へ行っていたし、よくも帰ってこれたものだ。
「にゃ? ここはどこにゃ?」
クロが目を覚ましたらしい。
「ここが俺の元居た世界だよ。これから生きていく世界」
「にゃあのいた世界とは全然ちがうにゃんね。布団もとっても柔らかいしずっと寝ていたいにゃ」
「別に寝ててもいいよ。トイレは階段の横の部屋な」
「じゃあもうちょっと寝てるにゃ」
クロは尻尾をたたむとまた寝始めたようだ。
時計を見ると10時過ぎだった。
季節は秋の中盤11月だ。
寝る前と日付は1日しか変わっていない。
戸建ての俺の部屋は2階、両親と祖父、弟と住んでいる。
2階の部屋から降りて玄関を見る。
おいてある靴は3人分。
両親は不在、弟は夜勤明けで部屋で寝ているのだろう。
リビングからはテレビの音がする。
祖父がテレビを見ているのだろう。
年は80歳、最近は散歩へ行くのもつらいようで、ずっとリビングにいる。
リビングに入って祖父に伝えておく。
「じいちゃん、ちょっと出かけてくるわ。部屋に彼女が来てるけど後で紹介する」
「はい、お前仕事もしてないのに彼女なんているのか?」
「ちょっといろいろあって、後で説明するから。じゃあ出てくる」
そう言い残して、俺はもう1度部屋へ戻って外に出るために適当な服に着替える。
そして財布と通帳、スマホ、ICカードを持って家を出る。
とりあえず確認したいことと、買ってくる必要のあるものがある。
家から最も近い複合商業施設へ電車で向かう。
家から10分ちょっとくらい。
俺の家は都心まで電車で1時間もかからない、そこそこ栄えた、川の近くの家だ。
電車に乗っている間に必要なものをスマホのメモに書いていく。
施設の最寄り駅について歩いて商業施設に向かう。
生活に必要な一通りはなんでもそろう場所だ。
着いてまずは銀行へ行き、ATMにカードと通帳を入れて残高をチェックしてみる。
(やはりか・・・・・・)
思った通り、元の貯蓄300万から少し前に銀行から振り込みが入っていて急に2億円が増えている。
つまり金が欲しいという願いは一応叶っているようだ。
少し少ないが宝くじの当選金だろうか。
そこから10万円を引き出して財布に入れておく。
その足で驚安の量販店へ行って、Tシャツやパーカー、ジャージのようなゆったり目の服を数着、あとはカチューシャをクロのために買っていく。
さらにスーパーで昼食にばらちらしを3人前と、夕食は・・・・・・カレーでいいだろう、材料を買う。
とそこで両手がいっぱいになってしまった。
今はこれくらいかでいいか。
念のため帰路を急ぐ。
なんにもないだろうがクロが気がかりだ。
家に着き、服の入ったレジ袋を階段に置いてからリビングに入る。
「おかえり」
「ただいま、お昼はばらちらしだから」
そういいながら俺は冷蔵庫に3つのばらちらしと、カレーの材料を放り込んでいく。
終わったら洗面所へ向かい洗濯機を回す。
水の栓を開けて洗う服をポイポイ入れて、洗剤と柔軟剤を専用ポケットに入れて、適当にすすぎ時間とかを決めてスイッチオン。
異世界と比べて楽チンすぎる。
ついでに風呂を洗う。
風呂を洗い終えてもまだ洗濯は全然終わっていない。
しばらく放置でいいだろう。
階段に置いたレジ袋を回収し、2階の自分の部屋へ戻る。
クロは起きていた。
ちょうどベッドの下を漁っていたが。
クロと目が合う。
「あ」
「何やってるんだ。売り物になる予定だからあんまり触ってくれるなよ」
「わかったにゃ」
ベッドの下には段ボールに入ったトレカや、箱のままのフィギュアが入っている。
俺は安く買ったり、ゲーセンで安くとれるものを探して、手に入れては寝かせて売って、小遣い稼ぎをしていた。
もうじき昼飯時だ。




