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湖へ5。

 ブゥッと俺は飲んでいた水を噴き出してしまった。

 言動や見た目から、てっきり10代後半くらいに見えた、だから不味いと思っていたのだ。

 同い年とは思わなかった、厳密には違うと思われるが。

 まさかのフマルやマレインより年上なのか。


「なんにゃ?」

「俺と同い年なんだなと思っただけだ」

「若く見えて客が取れればよかったけどにゃ。肌のせいでそうもいかにゃかったにゃ」


 相変わらず重い過去を持っているらしい。

 話相手もいなかったらしいし聞いてやろう。


「思い出したくなければいいんだけど、君の、クロの過去をもっと聞かせてくれないか?」

「いいにゃ。代わりにアキラのことも教えるにゃ」


 そうしてクロの過去の話を聞いた。

 幼い頃は貴族で不自由なく暮らしていたこと。

 15歳で成人してからは役人になる予定で勉強していたこと。

 そのあと急に魔王という存在が現れ戦闘が始まったこと。

 いわゆるダークエルフが魔王側に加担し始めて、褐色肌は悪者扱いされ始めたこと。


「家も潰されるし、全員がまとまって暮らせにゃくにゃって離散したにゃ」


 とんでもないレッテルもあったものだ。


「この街で最近やっと落ち着いて暮らせてきたにゃ。少なくとも食べるに困ることはにゃいにゃ」

「それでも犯罪はしていなかったんだな。入れ墨も焼き印もないだろ?」

「・・・・・・バレにゃきゃ犯罪じゃにゃいんにゃ」


 それに関して俺は肯定も否定もできなかった。

 彼女自身は何も悪くないのだから。

 雰囲気が暗くなってしまったから俺の過去を話すか。


「俺はこの世界でも何もできないし、元の世界でも何もやってなかったんだ」

「どうやって生きてきたにゃ?」

「・・・・・・親のすねを齧り続けてた」


 事実、最近は全く何もしていない。

 毎日ゲームやネットばかり、引きこもっていたわけではないが。


「楽な世界にゃね。こことは大違いにゃ」

「そうだな。毎日がギリギリの生活とは無縁だったかな」


 こちらに来てから、一人で暮らす大変さが身に染みた。

 ギルドという場所で世話になってなかったら野垂れ死にもありえたし。

 急に気になったことがあった。


「ここの家賃の相場ってどのくらいなんだ? 俺はタダで寮に住まわしてもらってるんだが」


 正直、家賃を払う状態だったら生活が破綻していてもおかしくない。

 本来なら水道だってタダではないはずだった。


「にゃあは天引きされてるからわからんにゃ」

「給与の明細とかないのか?」

「そんにゃん交渉の余地にゃし、言い値にゃ。今の給料は1日、中銅貨1枚と小銅貨6枚にゃ」


 1食が小銅貨3枚くらいとして、クロは酒飲みみたいだし足りる訳がない。

 それじゃあ貯金する余裕もあるわけないな。

 一般人は冷蔵できない分、食事の保存が効かないのが痛すぎる。

 毎日外食しか選択肢が取れないから。


「まあ服は貰えるし、生きるのはできるにゃ。生きるのが面白くにゃいだけで」

「・・・・・・」


 やっぱり出会ってしまった以上、俺にはクロを見放すことはできそうになかった。

 これから暇なときはできるだけ会いに行ってやろう。

 子供ができているなら尚更、酒を飲んでいないか監視してやろう。


「食べ終わったし、もう少し散歩して帰るか?」

「そうにゃね」


 俺たちはゆっくり歩き、少し遠回りしながら街への帰路へついた。

 特段面白い出来事もなかったが、外へ出ることができた。


 街へ着いてギルドへ戻る。

 もちろんクロはフードを被っている。


「おかえりなさい。外はどうでした?」

「特に何もなかったですよ。帰る手段がないので遠出もできませんし」

「いいじゃないですか。私なんて、だいたい毎日カウンターの前で座ってるだけなんですから」

「今度、フマルさんも行きますか?」

「もちろん行きます。ラベン様が休みをくれればですけどね」


 初めての門の外はこんな感じで終わった。

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