支度金と新たな家。
「では、今日はこんなところにしてギルドに戻りこれからの話でもしましょう。アキラ様も疲れていらっしゃるはずですしね。アイフェ、ありがとう。今の支払いは全部私がしましょう」
ラベンがそう提案する。
そういうところで俺たち3人はギルドに戻った。
「さて。ではフマル、アキラ様に支度金を」
とラベンがフマルに重そうな布袋を渡して言う。
「はい。それでは支度金を授与しますね。これが小銅貨、中銅貨、大銅貨、小銀貨です」
フマルが袋から硬貨を出して指さす。1円玉、10円、500円玉くらいの大きさの硬貨が並んでいた。
「何もないのが小銅貨、これで水の中瓶2本くらいが買えます」
「次に木の絵が入っているのが中銅貨、1日の食費はこのくらいですかね? 価値は小銅貨10枚分です」
「一番大きく真ん中に穴が開いていて、周りが淵どりされているのが大銅貨、こちらは中銅貨の10倍の価値です」
「最後に小銀貨、これは大きさは中銅貨と同じですが淵がギザギザになっています。価値は大銅貨の10倍。価値は高いですが、中銅貨と同じ大きさなので無くさないように気を付けてください」
「これらを銅貨は10枚ずつ、銀貨を1枚お渡しします」
そう説明を受けて、俺は数を数えながら布袋にしまい直す。
「ちなみにさっきのランチは全部でいくらだったんですか?」
「ああ、全部で中銅貨1枚と小銅貨5枚だよ。内訳はランチが小銅貨3枚2つ、アイフェが頼んでいたのが小銅貨4枚、フマルのサンドイッチが小銅貨2枚、酒が3枚」
ランチと酒が同じ値段か、と思うのと同時に1小銅貨は現代日本のおおよそ100円ちょっとくらいのようだ。
これなら全部下の価値の10倍の価値で覚えるのには苦労しなさそうだ。
持ち運びは面倒そうだが。
「よし、あとは住む場所だが・・・今から探すのは大変だし、裏にあるギルドの住み込み用の寮のところではどうだろう? 4部屋あるが今使っているのは1つだけだ。今いるのは女性だが2部屋感覚を開ければ問題なかろう。ついでに彼女に部屋を案内してもらうといい」
「ありがとうございます。ついでに長袖かなにか服をもらえるとありがたいのですが?」
「全然寒そうにしていないからすっかり忘れていたよ。古着でよければ、住み込み用のあまりがあるはずだ。あとで渡そう」
あとは気になっていたことがあったのだ。
「今って何時なんですか?」
「ん?曇っているからよくわからないが多分夕刻前だろう。まだ鐘も鳴っていないし」
時計を見ないと思ったら時間は適当らしい。
時間で何かする、というのが自分は日本人らしいなと感じた。
「時間は朝に1回、昼に2回、夕方に3回だよ。教会から鳴らされる。曇っていなければ日時計が街中にあるよ」
だそうだ。
「じゃあ、そんなところで今日は休んでください。と言ってもしばらくは雪の予報ですし暇だとは思いますけどね」
「では私についてきてください。寮まで案内します。そこからは同僚に案内させますので」
「わかりました。これからよろしくお願いします」
俺は頭を下げてからフマルについていく。
カウンターからフマルは凸凹のついた木の板をもっていく。
カウンターの奥から裏へ出て目の前にある建物が寮だった。
「同僚は今日は非番ですけど仕事熱心なので頼めば案内してくれます。流石にずっとカウンターに人がいないのもアレなんで」
寮は4部屋、一番手前の部屋の煙突からは薄っすら煙が出ている。
扉は木製で板状のものを差し込むタイプの鍵がついていた。
コンコンコン、とフマルが3回扉をノックすると、中から長めの銀髪で白い肌の女性が顔を出す。
「はい?フマル?どうしましたか?」
「マレイン、とりあえず中に入れて貰えますか?寒いので。勇者候補様もいらっしゃいますが」
「ええ、わかりました。どうぞ」
マレインと呼ばれた女性が大きめに扉を開けて部屋へ入れてくれた。
部屋の中は割と殺風景だが机に作り途中のぬいぐるみ?のようなものが見える。
「アキラ様、こちらはマレイン。私の同僚で住み込みで冒険者ギルドの受付などを交代でしてます。夏の繁忙期とかはこの寮の全部屋埋まるんですが、今は彼女一人です」
「マレインです。勇者候補様はアキラ様、でよろしいのですか?」
「そうです。よろしくお願いします。ここの寮の部屋を1つ使いたいんですが? ラベンさんは2つ開ければといっていたので一番奥を使わせていただきたいのですけど」
マレインは銀髪のストレートでロングヘア、人形のように整った顔立ちをしている。
それ以外の特徴は血のように赤い目と大きめの胸だ。
「はい。了解しました。フマル、私が案内すればいいのですか?」
「うん、お願い。私は受付に戻るから。はい、部屋の鍵」
フマルが凹凸のある木の板をマレインに渡してから部屋から出ていく。
「それでは行きましょう。アキラ様」
マレインに促され俺も部屋を出る。
あとからマレインもついてきて出た後に鍵を掛けた。
俺があてがわれた部屋はすぐそこだった。
2部屋隣につくと、マレインが鍵を開けて中に入れてくれる。
「寒いですよね。少し待っていてください、今薪を持ってきますので」
マレインは外にある薪をとってきてくれるらしい。
その間に間取りでも見ておこう。
入口正面に机と椅子、机の横に鏡もある。
現代の鏡よりだいぶ曇っているが。
入口右手に側にドア、その奥、机の後ろあたりに木のフレームに藁を敷いたベッド。
その少し奥に暖炉とガラス窓がある。
「お待たせしました、今暖炉を付けます。あと着替えも頂いてきました。付けている間にお着換えください」
戻ってきたマレインが薪を暖炉にくべて枯れ葉に火打石で火をつけている。
火打石を使っているのは初めて見た。
俺はちゃちゃっと服を脱いでもらった長袖長ズボンに着替える。
下着の替えがなかったが女性に聞くより後でラベンに聞いたほうがいいだろう。
チュニックシャツと作業用ズボンのようなものだった。
シャツはともかくズボンはとても暖かい。
「火が付きましたのでもうすぐ暖かくなると思いますよ。ベッドのシーツと布団も持ってきます」
またマレインが出ていく。
俺は脱いだ服をたたんで机に置く。
マレインが戻ってきてベッドメイクをしてくれている。
「部屋の支度はできました。あとは設備ですが、洗面台とトイレはそこのドアの中で、入浴施設は少し歩いた場所に銭湯があります。薪はこの寮の横にあるので自由に持ってきてください」
「何から何まで助かりました」
「いいえ、顔がお疲れのようなので早くお休みになられたいかと思いまして。積もる話はフマルから聞いておきますよ。誰も来ないとは思いますが鍵は掛けておいてくださいね」
「ありがとうございます。眠いので早いかもしれませんが休みたいと思います」
そういったところで、どっと疲れが押し寄せてくる。
「それではおやすみなさい。また明日からよろしくお願いしますアキラ様」
部屋から出ていくマレインを見送り、部屋の鍵を掛けてトイレに入る。
入ってびっくりしたのは便器は陶器だし水洗ではあったのだが、便座と蓋が木製なのと、直接下に下水のようなものが見えていることだ。
流石にとても臭いのだが、用を足して流して蓋を閉めたらほぼにおいがしなくなった。
おそらく蓋に秘密があるようだ。
そんなこんなでベッドに入って今日の出来事を振り返ろうとしていたら急激に睡魔に襲われ意識を失った。