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絵画売り。

 特にあてもなく歩いていた昼食後、上流区へ入ってしまったらしい。

 変わった外装の家?に目がとまる。

 家の壁にはガラスに入った絵が飾ってある。

 いわゆる抽象画というやつなのだろうか?

 俺にはよくわからないが。


「おお、勇者様、絵に興味がおありで?」

「いや、そうでもないが」

「どうぞ、中も見て行ってくだされ。もっとわかりやすい絵もありますので」


 店員だかわからないが、独特の雰囲気の男に声を掛けられた。

 入ってみるか?


「見るだけでも大いに歓迎しますよ。将来のお客様になるかもですからね」

「じゃあ少しだけ・・・・・・」


 案内されながら大きな家へ入って行く。

 何か買わされそうになっても鋼の意思で断る決意をして。


「絵というものは観る人がいなければ価値が無いのです。私からは購入を勧めたりしないので

そんなに警戒されなくても大丈夫ですよ」


 考えた矢先に言われる。


「アナタの気になったもの、いつでも見ていたいものがあれば買っていただければよいのです」


 俺は薄暗い廊下を男の右後ろをついて歩く。

 わずかに採光用の窓があるだけの廊下だった。

 男がドアの前で止まる、目的の部屋へ着いたようだ。


「では案内していきます」


 ドアが開けられ、中が見えるようになる。

 4方向すべてに数枚ずつガラスの額縁に絵が飾られている。

 正面の一番大きな絵には神秘的で中性的な人の絵が描いてある。


 男が右手側の絵の近くの黒い線に手をかざす。

 すると絵の上から灯りが照らされ、くっきり見えるようになった。

 魔力がある人間らしい。


「どうですか? 綺麗でしょう?」


 絵は湖を描いたもののようだ。

 この街の北側にある湖だろうか?

 確かに綺麗だと思う。

 しかし、それはこの世界基準なのだろう。

 現代でこの程度の絵は見慣れているせいで俺には価値があるように感じなかった。


「やはり勇者様たちは同じ反応なのですね。皆さん目が肥えていらっしゃる」


 ということは他の勇者にも見せたことがあるということか。


「この黒以外の色の絵の具というのは高価なものなんですよ。一般では手に入りにくいのです」


 魔法協会では虹色のインクを使って印刷をしていたのを知っているので驚きはしない。

 それよりも俺が気になったのは正面の絵だ。

 そちらに目をやる。


「そちらの絵が気になりますか?」

「ええ」


 男が灯りをつけてくれた。

 見たことのある顔だった。

 忘れもしない、あれはこの世界に来た時に初めて見た顔だ。

 俺をこの世界へ呼んだやつ。


「ゴース様の絵ですね。といっても教会から伝聞したものを描いたものですが。もしかして勇者様はお会いになったことがあるのですか?」


 なんと答えたらいいのだろう。

 もうこの世界には存在しないであろう人物?の絵のはずだ。

 少なくとも男に正確な情報を与える必要はないと思った。


「俺をこの世界へ呼んだ人ですね」

「そうでしたか。憎いですか? それとも・・・・・・他の?」

「わかりません」


 こいつへの感情はよくわからない。

 退屈な日々から異世界へ送り込まれて楽しくはないが普通に暮らせている。

 どちらの生活が俺にとって良いことなのかわからなかったから。

 どうせなら魔物と戦ってみたかったかと言われればそれはそうだが。

 

「複雑そうなお顔ですな。観ていてもいい気にはならないでしょう」


 灯りが消される。

 手をかざしている間だけ付く魔石のようだ。

 他の絵も一応見せてくれた。が、


「ふむ。私たちの絵ではアナタの心を打つことはないかもしれませんね」

「いえ。そんなことはなかったですよ」


 他に10種類くらいの様々な絵を見た。

 すべて見たことのない風景や人物だったが思うところはなかった。


「アナタの美的な何かが欠けているわけではありませんよ。これは絵描きである私たちの問題だと思っています」


 この男、かなり鋭く心を読んでくる。

 芸術家でも自分の描きたい絵を描くタイプではないようだ。

 礼をいって絵描きの家を出る。

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