雪の日は暇3 。
「フマルさんはさっき歯磨きしてましたよね?」
そろそろ異世界へ来ても歯磨きも髭剃りもしておきたいのだが。
「一応人と話す機会の多い仕事なので、誰も来なさそうでも最低限のことはしますよ」
「俺も雑貨が欲しいんですけど、次はいつ頃晴れますかね?」
「うーん、普段なら教会の人が天気を伝えに来てくれるんですけど、来ないんですよね。ちなみにどんなものが欲しい感じですか? もし予備があれば出せますけども」
さしあたってコップ、歯ブラシ、髭剃り用のカミソリあたりだろうか。店に見に行ったら思い付きそうだが。
今は洗面台のポンプから直に手で水を受けて口をすすいでいるが、流石に冷たいのでコップが欲しい。
それをフマルに伝えると、
「全部予備は無いと思います。特に髭剃りは専門的なものですかね? 髪の毛と一緒に整えてもらうのが普通なのでちょっと高いかもしれないです」
現代では毎日髭剃りをしていたがこちらでは普通ではないらしい。
「まだ会って数日ですがアキラ様は髭が伸びるのが早そうですよね。ラベン様は2週間くらいでそのくらいしか伸びないと思います」
毛の伸び方は人それぞれだとは思うがラベンはかなり遅いのではないだろうか。
とそんな話題をしていたらドアが開いてラベンが入ってくる。
「はい、2人ともこんにちは」
「ラベン様、遅くないですか?」
「別にいいでしょう、私がここの一番偉い人、出番なんてそうないでしょう? どうせ誰もこないでしょうし」
そう言ってラベンは奥から2階へ上がってゆく。
そして2階の扉がへとラベンが入り、閉まる。
「だいたいいつもあんな感じなんですよ。まあ気前もいいし上司としては悪くないんですが」
「上の部屋は何があるんですか?」
「応接室ということになってはいますが、ぶっちゃけラベン様の私室みたいなものですね。用が無ければ呼ぶなとのことですし」
まあ緩い職場なんだな。
「あーあ、私もアキラ様の世界へ行ってみたいなー。このままギルドの受付なんてやっててもたかが知れてるじゃないですか。私も危険じゃない冒険がしてみたいですよ」
「旅行でもしてみたらどうですか?」
「この仕事、誰でもできるわけじゃないんですよ? 一応私、それなりに色々できる受付なんですから」
特殊な技能が必要な仕事なのだろうか?
俺には普通の受付にしか見えないが。
「あー、疑ってますね? アキラ様のいた世界じゃあ普通なのかも知れませんけど、文字の読み書きでも一般の方はできない方が多いんですよ?」
顔に出ていたのだろうか。
「それに下の冒険者の方から聞いた情報をまとめて、上の冒険者へ依頼書を書いたりすることだってあるんですから。わかりにくいから絵付きで書け、なんてラベン様はいいますし」
絵を書けなんて、確かに俺にはできそうにないかもしれない。