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夕食へ 1。

 外に出るとやはり少し寒い。

 ジャケットを持ってきて正解だったようだ。

 ジャケットを羽織って、フマルと並んで歩く。


「どうですか? 少しはこの街へ慣れたでしょうか」

「まだ全然ですかね。食事と風呂くらいへは行けそうですが」

「そうですよね。たった1日で全てができるわけはありませんよね」


 そんな会話をしながら食酒所へ向かう。


「これからどのくらいの間ここにいるのかわかりませんが、私たちはアキラ様をできるだけサポートします。たとえ冒険者としての仕事ができなくても関係ありません。それを忘れないでください」

「マレインさんにも、同じようなことを言われました」

「たぶんアキラ様は街から出ることなく、その間に他の勇者様が魔王を討ち果たしてくれるでしょう。ですが街を黒い髪の方が歩いていたらそれは勇者なのだと、みんな思うのです。今は何もないですが、魔物が出たりすればアキラ様に期待がかかる可能性もあります」


 勇者だと誤解されても気にするなと言ってくれているようだ。


「そんなことになっても、私たちは決してあなたを戦いに出すようなことはしないので安心してください」

「わかりました」

「せめて私たちにできることは、たった一人で何も持たずにこの世界に来たアキラ様を孤独にさせないようにしよう。そういうことになりました」


 なんというかとてもありがたいことだ。

 俺がなにもできなくてもそれでいいと認めてもらった。


「なので時が来るまでこの街での暮らしを満喫してみてください。私たちはそれに協力します」


 そこでちょうど食酒所へ着いた。


「さて、ここまで難しい話だったかもしれませんが、少なくとも私たちギルドはアキラ様を歓迎します。では夕食にしましょう」


 フマルからそう言われテーブル席に座る。


「えっと、アキラ様はお酒は飲めますか? 葡萄酒と蒸留酒がありますが」

「実はお酒には弱くて、一口くらいなら平気だと思います」

「そうですか・・・・・・」

「フマルさんが飲むのなら俺のことは気にしなくて構いませんよ」


 俺はほぼ下戸だ。

 缶ビール1本すら飲み切れるか怪しいくらい。

 仕事終わりの飲みが嫌で、企業勤めを選ばなかったくらいには苦手だ。


「じゃあ少し飲ませてもらいますね、アキラ様は苦手な食べ物はありますか? 特になければ私が頼んじゃいますけど」

「生魚が少し苦手ですね、あと虫」

「生魚ですか? それなら大丈夫です、私たちは生で魚を食べることはしないので心配ないと思います。虫も普通はよほどでないと食べませんね」


 よかった。生魚はともかくイナゴやら蜂の子は食べないらしい。

 ちょっと生理的に受け付けないのだ。


「アキラ様のいた世界は虫を食べることは日常的にあったということですか?」

「いや、ごくごく稀に食卓に出ることがあったので。こっちでの日常だったら無理だなと」

「そういうことなら問題ないかと。はい、注文お願いしま~す」


 フマルが手を挙げて店員を呼び、注文し始める。

 6品くらい頼んだようだ。

 すぐに赤ワインのグラスと水の瓶2本がくる。


「では、アキラ様のこれからを神に願って乾杯しましょう。乾杯」


 フマルはワイングラスを少し持ち上げる。俺も水の瓶を少し持ち上げて真似した。

 グラスを軽くぶつけないのは傷ついてしまうからだろう。


「あ、すみません。そちらの世界にはこういった習慣はありませんでしたか?」

「大丈夫です、似たようなものがありました」


 フマルはワインを一口含んでいた。

 俺も瓶から栓を抜いて水を飲む。

 そこでウインナーとゆでたジャガイモの盛り合わせと小皿が2つ運ばれてくる。

 横にケチャップのようなものがついている。


「一応マレインから聞きましたが、武器を全く扱ったことがないというのは本当ですか」

「はい、剣と槍を持たせてもらいましたが危うく怪我するところでした」

「あはは、初めてでは危ないかもしれないですよね。この世界では、男性ならよほどのことがなければ小さい頃から木剣で叩いて遊ぶくらいしますから」


 現代日本では、今なら新聞紙ブレードですらやるか怪しい。

 大人なら真っ当に生きていたら尚更そんなことはしない。

 せいぜい日曜大工で金づちやノコギリを持つくらいだろうか。


「本当に魔物がいない世界なんですね。私には信じられません、この世界では常に魔物と隣合わせで生きている方々もいるくらいですから」


 小皿にウインナーとポテトを取り、ケチャップを少しスプーンでとってかけて食べてみる。

 ウインナーは前と変わらず美味い、ポテトだけではパサパサなのでケチャップがあってちょうどよい。

 すいとんのような団子が入ったスープと、ワカサギのような小魚のから揚げが届く。


「俺のいた世界は人間同士での争いはありました。ですが普通、一般人は戦いませんし近年は剣で戦うというのも聞かないくらいでした」

「人同士で争いですか・・・・・・ 魔物に支配されているとか、勝ったら報酬が出る、のではないのですよね?」

「俺の知っている多くの戦争は思想の違いから来ているものと、領土の取り合いですかね」

「ああ、領土の取り合いはどこの世界でも共通なんですね。もっともこの世界では領土の取り合いも大半は魔物が絡んでいるみたいですけどね」


 小魚のから揚げをフォークで刺して口に入れてみる。

 そのまま素揚げなのかワタのえぐみがキツイ。

 酒のつまみっぽい。

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