ここが異世界か。
スマホだと読みにくいようなので区切りました。
本作は完結となりました。
目を覚ますと見たこともないヨーロッパ風?の建物に倒れていた。
目の前の床は真っ赤な絨毯だ。
夕べは普通にベッドで寝たはずだったが?
「目が覚めたか?勇者候補よ」
背中側から中性的な声が掛けられる、ゴロンと後ろに振り返るとそこには玉座のような場所に座った男?がいた。
なにやら頭には天使の輪のようなものがあるが、特徴はそれくらい。
60代くらいの中性的な見た目で服装はよくわからないがテレビで見たことのあるローマ教皇が着ているようなもので明らかに偉そうだった。
「これは夢なのか?」
と聞いた時点でこれは夢でないとすぐに思い至る、夢の中は映画のように自動で話が進み、自分の思考が介入することはないはずだと。
「いいや、夢ではない。これからお前にはこの世界を他の勇者とともに、魔の手から救ってもらう」
「そのためにこの世界へお前を呼んだのだ。才能があるのに怠惰で、自分から日々変わらぬ日常に退屈している、お前のような者をに呼んで我らの役に立って貰いたくてな」
「もちろんただで働いてもらう気はない。魔の者の首領を倒し、世界が我らの手に戻った時にはお前には3つの願いを叶えた上で元の世界に返してやろう。そしてそのために、まずは5つの能力を高めてやろう」
と一気に情報が増える。
どうやら今アニメなどで流行りの別の世界に呼ばれたようだ。状況を整理するために一応質問してみる。
「とりあえず俺は別の世界に呼ばれて、あんたたちに協力しろってことでいいのか? 確かに俺は変わらぬ日々を送っていたというのは間違ってないけど。それに思い当たる限り才能なんて特にないぞ?」
「お前の情報はわかっている、名前は木津川アキラ、性別男、年齢30歳、職業無職、祖父、父、母、弟との5人暮らし」
とその時突然玉座の右手側のステンドグラスが割れ、何者かが入ってきたと同時に剣のようなもので教皇服の首を切り落とす。
いきなりのことで理解が追い付かないまま、教皇服は光になって霧散して消えた。
足元、もとい床の感覚がなくなり宙に放り出される。
浮遊感の中、俺の意識は消えていった。
頬にあたる冷たい感触で一気に意識が覚醒した。さっきとはうって変わってめちゃくちゃ固い地面に横になっている。頬に触れた雪で目が覚めたようだ。
意識がはっきりしてわかったが猛烈に左足首あたりが痛い。
これでここが夢ではなさそうなことがハッキリした。
昔、手の指を骨折したことがあるが、それよりはマシで、折れてはいないと思うがひどい捻挫か打撲のようだ。
なんとか這って近くの木に背中を預けて座る。
辺りを見ると林道のような感じか、見える距離に石かレンガのような大壁っぽいものが見える。
このまま座っていても雪がひどくなるとと凍死しかねないので、ひとまずそこを目標にして歩いてみることにする。
幸い手の届く位置に杖替わりになりそうな大きめの木の枝が落ちていたので、それを拾って何とか立ってみると意外に歩けそうだ。
えっちらおっちら歩いていくと、石壁のところに門のようなものが見え、門番らしき人影もある。
ランタンのような灯りを持っているのが見えるので暖くらいは取らせて貰えそうだ。
木の枝の杖を突いて、門番の顔が見えるくらいのところまでついたとき、門番が腰の剣に手をかけながら寄ってきて声を掛けられる。
「これから大雪だってのにその恰好正気か? 人間に擬態する魔物でもその恰好は選ばないぞ?」
言われてみれば、寝てそのままここに来たのだからTシャツに短パンという格好で、俺は雪空の下を歩いていたのだ。
こんな声をかけられるのも無理はなかった。
「事情は分からんがこっちにこい。見てるこっちが寒い」
「ありがとう」
異世界なのに言葉は通じるんだなと思った。杖を突きながら門番の後についてゆく。
詰所のような場所に通され、適当な椅子に座るよう言われる。
暖炉があるし暖かい。
「そんであんたは何で大雪の前にそんな恰好で街の門へ来たんだ? 見たところ髪の色は珍しいが、着ているものは浮浪者ではなさそう、だがどう見ても門切手は持ってなさそうだし」
そう聞いてくる門番は金髪に緑の瞳をした10代後半くらいの若そうな剣士風だ。
「俺にもよくわからん、気が付いたら地面に寝てた。足もよくわからんがくじいたみたいだ」
「ふ~ん、記憶がないのか?」
「いや、記憶はあるんだがとりあえず話したら聞いてくれるのか?」
「別にいいよ」
「寝て起きたら教皇みたいな頭に輪っかがある人がいて」
「ちょ、ちょっと待った! 班長呼んでくるから!」
そういって門番は慌てて扉から出て行った。
数分後にさっきの門番と、同じような格好だが俺より少し年上であろう男が一緒に入ってきた。
年上のほうの門番が向かいに座り聞いてくる。
「起きた時のことを聞かせてくれないか?」
「昨日かな? 寝て起きたら頭に輪っかがある教皇みたいな恰好をした男? に魔物を倒してくれと、それで倒したら願いを3つ叶えて元の世界へと戻してやろうと、あとは5つ能力を高めるとかなんとか。それで説明中に教皇が誰かに首を切られて光になって消えて、そしたら俺は気を失って気づいたらこの近くに足をくじいた状態で寝てた」
初めは俺の話を鼻の頭をいじりながら聞いていた年上門番だったが、教皇が首を切られたというのを聞いた瞬間に顔が青ざめたのが分かり、「なんてことだ」という小声とともに手で顔を覆っていた。
「あなたは勇者候補様なのですね?」
と急に敬語で言われ、
「そんなことを言われた気がする」
と返すと年上門番の横で立って話を聞いていた若いほうの門番が「勇者候補なのに結構年いってませんか?」と年上門番に耳打ちしたのが聴こえた。
「真偽は分からんが今日は天からの声がしないと司祭様がおっしゃっていたのだ。関係あるかもしれん」
「勇者候補様、お名前をよろしいですか? これから司祭様に会ってお話をしていただきたい」
と年上門番が問うてくるので、
「木津川アキラ(きづがわ あきら)だ」
と返すと?という顔をされたので苗字と名前を分けて、
「木津川 アキラ、アキラが名前」
というと今度は伝わったらしく、
「ああ、わかりました。確か勇者候補の方は苗字という別のものがあるんですよね。ではアキラ様、司祭様を呼んできますので少々お待ちいただけませんか? 暖かい飲み物でも飲んで待っていてください。足のほうも司祭様ならば治せるでしょう」
と言い若い門番に「ここはお前に任せる、どうせ門には誰も来ないだろうが一応たまに見ておけ」
と言って年上門番は足早にどこかへ出て行った。
「どうぞ。アキラさん」
そういって、若い門番は暖炉の上で温めていたやかんからマグカップにあついお湯を入れてくれる。
それで一息ついたところで、
「アキラさんはどうしてこんな辺境の街へ? それに勇者候補だから何か能力があるんでしょう?」
「その辺は全くわからん。来たくて来たわけではなくていつの間にかいた、あと能力はおそらくなにも貰えていないと思う。話の途中で教皇みたいな人?が首を切られて光になって消えたのは覚えてるけども」
「アキラさんのいう、その教皇みたいな人っていうのがおそらく僕ら信仰している神だと思います。ほら、こんな格好じゃなかったですか?」
そういうと胸元からチェーンのついた500円玉より大きなコインを取り出す。
確かにそのコインに書かれている顔は俺があった教皇服にそっくりだった。
「たぶんその人だと思う。残念だけど首を切られたのもその人」
「やっぱり、推測でしかないですけど魔物が天界へ侵攻してしまったのかもしれませんね」
「俺のいた世界では天界というのは存在していなかった、というかあったか、はよくわからないからなんともいえないけど、人間より上位の存在である神というのがいる場所ってことでいいのか?」
「その認識であっています。空のさらに先にあるのが天界でそこに住んでいるのが神様、神は地上に住む人々に様々なものを与えてくださいます」
「空の先に宇宙はないのか?」
「うちゅう?空の先は空の先ですけど?」
どうやらまだ宇宙に到達した人がいないのか、そもそも宇宙がないようだ。
まあ普通の人に聞いてもわからないのかもしれないが。
「ちなみに君の信仰している神が消えてしまった、というのはそんなにショックを受けるようなことではないのか? 人によってはとても大事な気がするんだが」
「まあ驚きはしましたけど、もう魔物との戦いも佳境と聞いているので、何があっても受け入れるだけといいますか、僕の信仰している神以外にも、天界にはほかにもいらっしゃるはずなのでその方たちが何とかしてくれるのに期待ですかね」
「そうなのか? もう決着が着くのに俺は呼ばれたのか? よくわからないな」
「仕事柄いろいろな情報が入ってきますけど、そろそろ勇者様たちは魔王と戦う準備が整ったという話を聞いてますね」
とそんな話をしていると部屋の外から話声が聞こえてくる。
どうやら年上の門番が戻ってきたようだ。
「司祭様、どうぞ」
と門番が扉を開け、部屋にワインレッドのローブを着た司祭と呼ばれる人物が入ってきた。
かなり凝った装飾の入った上に長い黒い帽子を被っている。
顔を見ると女性だった。
金髪で碧眼、均整の取れた顔立ちでかなり若そうに見える。
前に座っていた門番が退いて、そこに司祭が座る。
「初めまして勇者候補様、急ぎですので堅苦しい挨拶は省略させていただきますが、どうかご容赦ください。私はこの街でゴース教徒を収めておりますマイヤでございます。勇者候補様のお名前はアキラ様と聞いておりますが?」
「はい。あっています」
「ではまずはアキラ様の足の治療をしたいと思うので、痛む場所をこちらに見せていただけますか? 座ったままで構いません。私がそちらに行きますので」
司祭がこちらに来る。言われた通りに左側を向き患部を指さすと司祭がそこに手を当てて呪文のようなものを唱える。
「慈悲深き光の神ゼレよ、この者の苦痛を取りさりたまえ」
司祭の手からほのかに光が出て患部を包み込むと途端に痛みが消え去る。
「皆さん、今ここで行ったことは他言無用でお願いいたします。勇者候補様のためとはいえ信仰外の神の力を行使したことを司祭が使ったのは問題なので」
と注意される。司祭は席に戻り、
「アキラ様のおっしゃるとおり、どうやらゴース様は討たれてしまったようで、力をお借りすることができなくなってしまっているのです。お手間を取らせますがもう一度門番の方々にされたお話を聞かせてもらっても?」
そう言われ、俺は先ほどの教皇が首を切られ光となって消えた話をした。
一通り話が終わると司祭は、
「やはり昨日から神託を受けたりできなくなっているのはそういうことでしたか。私たちにはどうすることもできなさそうですね・・・・・・アキラ様お話ありがとうございました」
「ところで俺はこれからどうすればいいんだ? 何も役にたたないと思われるんだが」
そういったところで、せっかくの異世界なのにと、むなしくなってきたが現実はこんなものだ。
俺は、言葉の通じる海外旅行だと思って割り切ることにした。