#73
この学校には七不思議が実在する。
そのことにミドリが最初に気付いたのは、文化祭で七不思議を扱ったときだった。
クラスメイトのナオが、なぜか合唱部の先輩であるくずもちを介してコンタクトを取ってきた。
そして、七不思議の監修という名目で主要制作陣に加わり、ミドリ経由で内容に口を出してきた。
おそらく実在のものを扱わせないための措置だったのだろうが、それによって、少なくともミドリはいくつかの七不思議を知ってしまっていた。
目的地へ案内する創作部員の後を歩きながら写真を眺める。
三年間通ってきたのだから、地図と写真だけでも目的地には辿り着けるだろう。
しかし、それでは意味がないのだと彼らは言った。
「着きました」
そう案内されたこの場所は、ミドリが毎日のように通ってきた廊下だった。
「私と同じように歩いてくださいね」
言われるがまま、数歩遅れて同じように歩いていく。
いつかルカに勧められたゲームの謎解きのようだ、と頭の中で呟いた。
最後の一歩を踏み終えたとき、案内人は何やら名前のような言葉を口にした。
びゅう、とミドリの真横を冷たい風が吹き抜ける。
「縺薙Ξ縲√≠縺偵Ν縲」
風の音に紛れて聞き取れない言葉が耳に打たれた。
かた、と何か軽いものがぶつかる小さな音がした。
そっとその音の正体を確かめるために自分の手のひらを見る。
そこには何かの部品があった。
そうして一つ一つ丁寧に回っていく。
案内人はその都度代わり、その度に何かの部品が集まっていった。
その中にはあの踊り場の鏡もあり、少し懐かしく感じた。
ようやく辿り着いた七不思議の最後の一つ。
それが何かは誰も知らなかった。
もう一度地図を見る。
そして、ミドリはああ、と何かに気付くと部室を飛び出していった。
少し駆け足でミドリが辿り着いたのは、あの桜の木だった。
手の中にある謎の物体。
それを幹のくぼみに押し当てると、辺りが真っ白になった。
『おめでとう』
気がつくと、そこには相変わらず満開の桜の木がある。
何が変わったのかはわからないが……。
……いや、確実に変わっている。
声が聞こえてきた。
おそらくまだ眠っているが、シミラによる騒動については解決したとみていいだろう。
しばらくして、アグリとアイカがやってきた。
いつの間にか、見知らぬ女子生徒も目の前に現れていた。
「その人は?」
『私は虹見高校七不思議のひとつ、不朽桜』
そう言うと、女子生徒は昔話を始めた。
十年程前、この町に災害が起きた。
人々は強い感情に振り回され、それぞれの世界に閉じこもっていく。
要は先程までの教室のような状態だったらしい。
女子生徒はそれを止めるためにその身を桜に変えたのだという。
いつか完全に終わらせてくれる者が現れるのを待ちながら。
話を聞き終え、実際の状況を見に行こうとしたところで、アグリが本館の屋上を見上げて呟いた。
「何かやってるのかな」
そこには複数の人影があった。




