#05
その日、ミドリとユカリは、クラスメイトたちと共に、バスに乗っていた。
今日は校外体験学習。投票の結果、県内にあるテーマパークに行くことになったのだ。
他のいくつかのクラスも来ていたが、残念ながら、知り合いはいないようだ。
到着してまもなく、隣接した施設で昼食のバーベキューを食べることになった。
食後、アトラクションのチケットを一枚もらった。
ミドリとユカリは、しばらく見て回りながら、その様子を写真やメモに残していった。
平日の昼間で、あいにくの雨ということもあり、寂しい雰囲気を醸し出している。
二人はしばらく悩んで、観覧車に乗ることにした。
雨は止んでいたが、空は変わらず灰色をしていた。
「実は、ここに来るのは初めてなんです」
観覧車の中で、ミドリがぼそりと言った。
「……僕も来たことなかった」
「そんな奇遇なことがあるんですね」
「そうだね」
地元の子供であれば、一度は来たことがあるような場所ではあるが、二人は来たことがなかった。
そんな些細なことで共感できる相手に対して、二人は運命を感じていた。
「……明日だね、投稿」
「あれでいいですね?」
「いいよ。何回も確認したし」
つい最近、初めて出会った日から作り続けていた動画が完成した。
確認した日は興奮しすぎて、翌日寝坊しかけた。
だから考える。
「……また、作りませんか?」
初めてできた気持ちの通じる相手を、一度きりの関係で終わらせるには惜しい、と。
「……僕も、投稿したら言おうと思ってたんだ」
二人とも、同じことを考えていたらしい。
「つまり?」
「これからもよろしく」
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
こうして、ミドリとユカリは、ユニットを組むことになった。
――――
――
「では、投稿を祝して。……乾杯」
無事に投稿できたことを確認し、二人は祝杯を挙げた。
祝杯と言っても未成年なのでお茶だが。
「まさか通話でやるとはね」
「ビデオ通話の機能があってよかったですね」
「それ。顔見れなかったら、いよいよわけわからんくなるよ」
普段の作業通話とは異なり、ビデオ通話で話していた。
今日は作業はないので、ただ投稿を祝うためだけに通話をしたことになる。
「……連休中に会いますか?」
「……日曜なら空いてる、はず」
「ではそれで。何をしますか?」
「だったらカラオケ行ってみたい」
ここ数日は最終調整や最終確認だけだった。
毎日会うとは言え、久しぶりの通話だったので、少しテンションが上がっていたのかもしれない。
友人と呼ぶには少しずれた関係ではあるが、ユカリは友人同士のようなことをしたくなった。
――――
――
投稿翌日、合唱部の新入生歓迎会としてバーベキューを開かれることになった。
基礎練習を終え、何人かの先輩たちは買い出しに行った。
ミドリとアグリは残った先輩たちとバーベキューの準備をし、買い出し組が帰ってくるのを待っていた。
「曲作ってるんだ」
待ち時間、アグリはミドリのスマホの通知を見て、つい口を出してしまった。
「……ああ。まあ、そうですね」
「どうやって作るの?」
「パソコンのソフトウェアで作っています」
「私も作ってみたい」
「作ればいいんじゃないですか?」
「パソコンはあるんだけど、どんなソフトを使ったらいい?」
「……今からまとめるので、しばらく時間をください」
元々合成音声音楽が好きで、作曲に興味を持っていたアグリは、ミドリに教えを乞うた。
ミドリは、少しでも助けになるなら、と情報をまとめることにした。
「どうぞ。一応自分でも調べてみてください」
しばらくして、先輩たちが買い出しから帰ってきたので、バーベキューを始めることになった。
食事中、ミドリはアグリに紙切れを手渡した。様々なソフトウェア名と簡単な説明が書いてある。
「ありがとう」
アグリはそれをポケットにしまい、ミドリに尋ねた。
「ところで、"くさもち"ちゃんの活動名って何なの?」
「……それはちょっと」
「そりゃそっか。じゃあ、完成したら聴いて!」
「わかりました」
食後、片付けやレクリエーションもあり、解散したのは授業終わりと同じくらいの時間だった。