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#51

「私たちが卒業してしまったら、一体誰が歌うのだろうね」


 音楽室への道中で、アイカが尋ねた。

 先程、入学式の校歌紹介で校歌を歌ったところだ。


「その辺の生徒に頼むんじゃない?」

「請け負ってくれる生徒はいるのでしょうか」

「そんときは先生らが考えるんやろ」


 アグリやミドリが初めて聞いた"合唱部の歌声"が二年前のこれだった。

 当時はもう少し部員がいたことを思うと、なんだかやるせない気持ちになる。


 現在、部員は三名。しかも全員が最高学年である三年生ときた。

 校歌紹介がどうなるかどころか、そもそもこの部がどうなるのかすら見通せない。


「とにかく、このビラ配りが勝負だね」

「求める者に届くよう、全力を尽くします」

「ああ」


 この一年どころか、この一週間に合唱部の存続がかかっていると言ってもいい。

 その中でも一番重要な初日を乗り切るために、三人は円陣を組み、気合いを入れた。




 入学式後の教室への道のりでは、各部思い思いにビラ配りをしていた。

 今年の合唱部員にはそこまで絵のうまい者はいないが、それでも興味を引くように力を合わせて作った。


 とにかく、知ってもらえなければ話にならない。

 各々、ビラを配りながら、内心神頼みをしていた。




 用意したビラを全て配り、次は部活紹介である。

 配られる冊子にも載せてもらっているが、ここで新入生にランチタイムコンサートの存在を周知させたい。


 相変わらず人手不足にあえぎながらも制作した宣伝用ポスターを持ち、見た目にも華やかに演出する。

 それでも人数はどうしようもないのが辛いところだ。




 そういうわけで、今日は毎年開催しているランチタイムコンサートだ。

 春休み中に練習してきた、テーマソングを含む全三曲を演奏する。


 しっかり宣伝したためか、まもなく本番というころには予想よりも多くの生徒が見物に来ていた。

 部員たちはというと、こっそり、例の能力を使い、興味を持つ人を増やす計画を立てていた。


「本日は、お忙しい中集まってくださり、ありがとうございます」


 部長のアグリによる簡単なあいさつから始まり、用意してきた曲を順番に歌っていく。

 すでに定番となったテーマソングは、初見の人には見向きされないが、こういった積み重ねが文化祭の感動を生むのだと思っている。


 アグリとミドリが初めて出会ったのもまさにこのときだった。

 当時は、まさかその二人しか入部しないとは思っていなかったが、なんだかんだ楽しくやれている。


 ただ、これから入部したいと思っていた人がいても、この人数を見て、やめておこうと考えるかもしれない。

 このときの三人にとってはそれだけが不安要素だった。




「結局、誰も来なかったね……」


 入部式当日、見知った顔しかない教室で、三人の合唱部員は途方に暮れていた。

 懸念通り、一人の入部希望者も現れなかったのだ。


 それどころか、見学者も来ていない。

 持てる力全てを使っても得られなかった結果に、脱力してしまった。


「ひとまず、次の目標を立てませんか?」


 こういうとき、ミドリは切り替えようとしてくれる。

 アグリは重しを引きずりながら、部長として情けなくなった。


「……それもそうだね。いつやる?」


 何があったとしても、時間は待ってはくれない。

 こうしている間にも次の活動目標を立てなければ、時間を無駄に浪費するだけだ。


 アグリはとりあえず次の発表場所を決めることにした。

 結局のところ、演奏するために自分たちはここにいるのだ。


「早くて来月、再来月か」

「中間試験が五月にあるので、六月の方がよいかと」

「試験明けの結果返ってきた辺りにする?」


 決めだせば早いもので、次の瞬間には大まかな時期が決まりかけていた。


「先生に相談しよう」

「そうですね」


 そういうわけで、詳細な日程は後日決めることにし、早速曲決めに入っていった。

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