#04
「この色を打ち消すにはどうしたらいいと思う?」
翌日、ミドリとユカリは廃研究所に来ていた。
二人がトオルに出されていた課題を渡すと、トオルは二人に問いかけた。
「補色を置いても灰色になるだけですよね」
「それでいい」
ユカリの解答とも言えない返答に、トオルは大きく頷いた。
そして、例がないとわからないだろう、と色の付いた紙を渡した。
「見える」
「見えますね」
二人は、トオルに渡された紙を見て、その色を再現した。
練習の成果か、見た色を再現する程度であれば、三十分もあればできるようになっていた。
そして、その色を視覚に適用することで、シキサイを見えなくすることができた。
ただし、その効果は眼鏡に適用されてしまったが。
幸か不幸か、二人とも普段から眼鏡をかけていたので、ほとんど影響はなさそうだった。
「参考がなくてもできるようになろうか」
これが次の課題ということになり、この日は解散となった。
夜、二人は作業通話をしていた。
「自分たちで歌いませんか?」
それぞれ作業を進めていたとき、ミドリが提案した。
「……どういうこと?」
「人間歌唱の方が、わたくしたちの想いが伝わると思うんです」
「いや、それはちょっと」
「駄目ですか?」
「やったことないし……」
ミドリも自分の声を公開したことはなかったが、未投稿のものには自分の声を使ったものもあった。
説得の末、なんとか許しを得たミドリは、歌うための楽譜を作り始めた。
――――
――
週が明けて放課後。ユカリは美術部の活動で校内を探索していた。
ユカリは最後尾にいたが、どこからか視線を感じた。
まさか、と思い、眼鏡を外して振り向くと、そこには大きな虫がいた。
同時刻、ミドリは合唱部の基礎練習の一環としてランニングをしていた。
その途中、他の生徒たちと並んで歩いているユカリとすれ違った。
一周回ってくると、なぜか何度も背後を振り返り、怯えているのがわかった。
ミドリが眼鏡を外してそこにあるものを見ると、大きな虫、シミラがいるのが見えた。
もう一周回り、ノルマを終えたミドリは、近くにいた先輩に許しを得ると、急いでユカリの元へ向かった。
補色で見えなくなるのなら、この虫にも補色をぶつければいいのではないか。
そう考えたミドリは、そのシミラが抱えている石を狙ってその補色の塊を投げつけた。
すると、シミラはバラバラになったので、さらに色を撒くと、後には石だけが残った。
「三枝さん?」
視界を塞いでいたシミラが突然バラけて消えてしまったため、ユカリは大いに驚いた。
ユカリは、その場に立っており、この出来事を引き起こした犯人だと思われるミドリに声をかけた。
しかし、ミドリは何も言わず、踵を返して立ち去ってしまった。
「用事は終わったの?」
少し時間を置いて音楽室に戻ってきたミドリにアグリが声をかけた。
ミドリは終わったと返事し、息を整えた。
小休憩だったらしく、しばらくすると、発声練習を呼びかけられた。
発声練習が終わり、部長の"あんみつ"がミドリとアグリを呼び寄せた。
二人が近づくと、"あんみつ"はそれぞれ一部ずつ楽譜を渡した。
「ここ、虹見高校合唱部にはテーマソングがあります」
まずは聴いてみて、と"あんみつ"が言うと、いつの間にか準備していた、三年生の"ひやしあめ"がピアノを弾き始めた。
演奏が終わってまもなく、二人は希望するパートを尋ねられた。
二人とも経験者であり、中学時代はミドリはアルト、アグリはソプラノを担当していた。
そのため、この曲に関してはそのままのパートを担当することになった。
まずは、一日目ということで、一番の音取りをすることになった。パートごとに別れて練習する。
練習場所は日替わりで決めているらしく、この日はソプラノがメインの部屋で練習することになった。
先輩たちが想定していたよりも早く音取りを終わらせたので、早速合わせ練習をすることにした。
一日目にしては高度な指摘をされながら、練習をしていると、いつの間にか五時を過ぎていたため、二人は先に帰ることになった。
「いつから同じように活動できるようになるんだろうね」
「五月からだと思うよ」
駅で電車を待っていたアグリがミドリに話しかけると、この日一緒に帰っていた二年生の"かのこ"が答えた。
「月末に歓迎会を開くから、予定、空けといて」
「いつですか?」
「土曜日」
「わかりました」
丁度電車が来たので三人は電車に乗り込んでから歓迎会の詳細について話していった。