#48
臨時休校を挟み、文化祭後最初の授業日。
今日は二人になってしまった合唱部の最初の練習日でもある。
その前に、ミドリから練習前に中庭に来るように言われていたので、そちらへ向かった。
「いらっしゃい」
中庭に着くと既にミドリがいた。元気そうでなによりだ。
ただ、この後会うのにもかかわらず、わざわざ音楽室ではなく、中庭に呼んだのはなぜだろうか。
「それで、話って何?」
「……どうぞ」
「先日はどうも」
そう言ってミドリの背後から現れたのは、一昨日の事件の関係者でもあるアイカだった。
その顔を見て、それは音楽室ではやらないな、と納得した。
「実は、合唱部に入ろうと思っています」
「え」
アイカといえば、イロドリ側の人間である。
校内ではそんなことは関係ないとは言え、ミドリはかなり警戒していたはずだ。
先日の事件でミドリに連絡をとった時点で信用してはいたようだが、なかなか意外な話だ。
「八神さんが嫌でなければ、届けを出すそうですよ」
「いや、私は別にいいんだけど、なんか意外というか」
そもそも、なぜ彼女は合唱部に入りたいのだろうか。
部員が少ないので、ありがたいと言えばありがたいが、何か裏があるのではないか、と勘ぐってしまう。
「わたくしも相談を受けて知ったのですが、アイカさんは歌を歌われているそうです」
「ふうん、そうなんだ。……まあ、いいんじゃないかな?」
特に拒否する理由もないので、大歓迎とまでは言わなくても歓迎しておく。
「ありがとうございます。……これからよろしく」
話し合いはすぐに終わり、三人は音楽室へ向かった。
アイカが顧問と話している間に、残った自分たちは今後の計画を立てることにした。
元々、次の舞台は隣野市で行われる文化祭、"おとのわ"の予定であったが、人数の関係で参加を見送るつもりだった。
しかし、もしアイカが正式に入部すれば、ぎりぎり参加できると思われる。アイカの話が終わったら聞きに行こう。
その次になると、三年生を送る会になる。
いずれにせよ、いつもの曲は練習するので、余っていた楽譜を引っ張り出した。
「お待たせ」
その内にアイカが戻ってきた。
「どうだった?」
「どうでしたか?」
二人が同時に聞く。
「今日からよろしく」
アイカはそう言ってピースサインを作った。
無事に届出がなされたらしい。
「ではこれを」
「これは……楽譜?」
「うちの部の伝統でね。入部したらまず、テーマソングを覚えてほしいんだ」
ミドリが見つけた一組の楽譜を手渡し、アグリが簡単に説明する。
今日の今日は無理でも、早いうちに練習を始めたいところだ。
「これってこないだ歌ってたやつ?」
「はい」
「へえ、これが噂の……」
渡された楽譜を、裏返したり、斜めから見たりして、じっくり観察する様子は不思議に思えた。
「早速歌う?」
理由はともかく、興味深げに楽譜を見る者は、誰であれ「早く歌いたい」と思っていることだろう。
新しい仲間と早く肩を並べたいと興奮するアグリをミドリが制して言った。
「その前に基礎練習でしょう」
「あ、そっか。……それで、この後も参加できるの?」
もののついでに、とアグリが発した言葉に、アイカはしっかりと頷いた。
アイカに説明をしながら、順番に基礎練習をこなしていく。
今日は発声練習を長めにとり、音域や肺活量の他、発声方法も教えていった。
顧問の力も借り、それっぽい形にしたところで、活動を終わりにすることにした。
いくらなんでも初日から本練習まで入るのはハードだと思ったのもある。
そういうわけで、今日は三人で帰ることになった。
話すことはそこそこあるが、基本的には共通点のないメンバーである。
ミドリはともかく、アグリにはアイカと話せるような話はない。
外ではシキサイの話もできないので、正直気まずかった。
ひとつよかったのは、二人とは電車の方向が違ったことだろうか。
ただ、いつまでもこうしているわけにはいかないので、対策を考えなければならないなあ、とアグリは思った。




