表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/100

#42

 今日から文化祭。一日目の開会式が三年生にとって最後の舞台になる。

 もしかしたら、自分たちにとっても、合唱部そのものにとっても、最後の舞台になってしまうかもしれない。


 いつもより早い電車に乗る。

 とはいえ、どのクラスも準備があるので意外と混んでいる。


 到着までに全員揃ったので、雑談をしながら向かう。

 二年間一緒にやってきたこともあり、これが最後だと思うと少し寂しい。


 音楽室に着き、荷物を下ろして一息つく。

 今日の日誌はくさもち、予定表はかのこの担当だ。


 いつものように練習を始める。

 とりあえず基礎練習を一通り済ませ、軽く休憩を挟んでからリハーサルをすることになった。


 練習が終わり、本番まで休憩になったところでミドリに呼び出された。

 着替えだけ済まして、音楽室横の外階段で話す。


「知っているとは思いますが」


 そんな前置きから始まった話は自分たちだけでなく、この学校自体にも関わることだった。


 自分たちも何度も歌った、歌い継がれてきたこの曲は、なぜか文化祭初日に真果を発揮する。

 それは、他の、これまでに歌ってきた幾人もの部員が、詳細を知らずとも感じ取っていたことだ。


 この世界にはシミラという生物がいる。

 生物と言えるのかすらわからないそいつは、人の心を蝕むのだという。

 実際、アグリも苦しむ人間の側にシミラを見たことがあったので、それは確かなことだと思っている。


 しかし、それが一体何だと言うのだろうか。

 いくら、あの曲がシミラを駆除する役に立つからといって、わざわざ今のこの時間にする話でもない。


「もし、何か起こりえないことが起きたとしても、自分を責めないでください」


 訝しむアグリの心の内を知ってか知らずか、ミドリは話を終わらせ、音楽室に戻っていった。




 卒業した先輩が様子を見に来たり、先輩たちに巻き込まれてホワイトボードに落書きをしたり。

 そうこうしているうちに時間になったので、五人は体育館へ向かった。


 漏れ聞こえてくる吹奏楽部の演奏を聞きながら、最後の最後まで話していると、顧問の先生に怒られてしまった。

 反省して揃って口をつぐむ姿がなんだかおかしくて……悲しくなった。


 ~♪


 音が切れる。演奏が終わったようだ。

 少しの間を空けて裏口のドアが開く。


 自分たちも撤収を手伝い、それから準備をする。

 かりんとうのアナウンスが終わる少し前にはなんとか終わった。


 息をつく。


 その直後、照明が舞台を照らした。


 眩しさに目がくらむ。


 客席から目を逸らし、ピアノの前に座る伴奏者を見る。


 人数の少なさに免じてか、今回は顧問の先生が演奏することになっている。

 ……ミドリが弾こうとして揉めたのは内輪だけの秘密だ。


 演奏が始まるわずかな時間が、途方もない時間に感じた。


 腕が動き、最初の一音が叩かれる。


 このメンバー最後の舞台が、幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ