#42
今日から文化祭。一日目の開会式が三年生にとって最後の舞台になる。
もしかしたら、自分たちにとっても、合唱部そのものにとっても、最後の舞台になってしまうかもしれない。
いつもより早い電車に乗る。
とはいえ、どのクラスも準備があるので意外と混んでいる。
到着までに全員揃ったので、雑談をしながら向かう。
二年間一緒にやってきたこともあり、これが最後だと思うと少し寂しい。
音楽室に着き、荷物を下ろして一息つく。
今日の日誌はくさもち、予定表はかのこの担当だ。
いつものように練習を始める。
とりあえず基礎練習を一通り済ませ、軽く休憩を挟んでからリハーサルをすることになった。
練習が終わり、本番まで休憩になったところでミドリに呼び出された。
着替えだけ済まして、音楽室横の外階段で話す。
「知っているとは思いますが」
そんな前置きから始まった話は自分たちだけでなく、この学校自体にも関わることだった。
自分たちも何度も歌った、歌い継がれてきたこの曲は、なぜか文化祭初日に真果を発揮する。
それは、他の、これまでに歌ってきた幾人もの部員が、詳細を知らずとも感じ取っていたことだ。
この世界にはシミラという生物がいる。
生物と言えるのかすらわからないそいつは、人の心を蝕むのだという。
実際、アグリも苦しむ人間の側にシミラを見たことがあったので、それは確かなことだと思っている。
しかし、それが一体何だと言うのだろうか。
いくら、あの曲がシミラを駆除する役に立つからといって、わざわざ今のこの時間にする話でもない。
「もし、何か起こりえないことが起きたとしても、自分を責めないでください」
訝しむアグリの心の内を知ってか知らずか、ミドリは話を終わらせ、音楽室に戻っていった。
卒業した先輩が様子を見に来たり、先輩たちに巻き込まれてホワイトボードに落書きをしたり。
そうこうしているうちに時間になったので、五人は体育館へ向かった。
漏れ聞こえてくる吹奏楽部の演奏を聞きながら、最後の最後まで話していると、顧問の先生に怒られてしまった。
反省して揃って口をつぐむ姿がなんだかおかしくて……悲しくなった。
~♪
音が切れる。演奏が終わったようだ。
少しの間を空けて裏口のドアが開く。
自分たちも撤収を手伝い、それから準備をする。
かりんとうのアナウンスが終わる少し前にはなんとか終わった。
息をつく。
その直後、照明が舞台を照らした。
眩しさに目がくらむ。
客席から目を逸らし、ピアノの前に座る伴奏者を見る。
人数の少なさに免じてか、今回は顧問の先生が演奏することになっている。
……ミドリが弾こうとして揉めたのは内輪だけの秘密だ。
演奏が始まるわずかな時間が、途方もない時間に感じた。
腕が動き、最初の一音が叩かれる。
このメンバー最後の舞台が、幕を開けた。