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#12

「実は来月投稿しようと思ってて」


 練習終わりの駅への道中で、アグリが打ち明けた。


「そう言うということは、完成したんですね」

「うん。今は動画を作ってるとこ」


 絵も描いたのだ、と得意げに話すアグリを、ミドリはほほえましく思った。

 全部自分でやる勢に影響されたのだろうか。


「でも、くさもちちゃんがアカウント教えてくれないから、私も教えないよ」

「それでも、聴かせてはいただけるんですね」

「だって協力してくれたし。くさもちちゃんがいなきゃ作ろうともしなかったって」

「そうですか」


 アカウントは教えないと言うが、聴かせた曲から曲を探し始める可能性には思い至らなかったのだろうか。

 ミドリはせっかく聴かせてもらえるということで、自分の曲も聴いてもらうことにしたが、やはりアカウントを教えることはないと思った。


 そういえば、最初に相談されてから何か月経ったのだろうか、とミドリは思い返した。

 あれから時々送られてくる質問に答えてはいたが、進捗について聞いたことはなかった。

 そして、まだ半年も経っていないが、もう投稿するつもりなんだと思った。


「一番の功労者には、私の処女作を一番最初に聴く権利を授けましょう、ってね」

「……功労者はあなたでしょう」


 調子に乗っているのか、アグリはスキップまで始めた。

 周りには前方を歩いている先輩たちしかいないので、ミドリはしばらく調子に乗らせておくことにした。

 そんなアグリを眺めながら、ミドリは、自分が最初に作った曲を聴き返してみようと思った。


「楽しみにしていますよ」




「あった」


 帰宅後、ミドリはパソコンのファイルを漁り、過去の作品を探してみた。

 整理していたおかげですぐに見つかったので聴いてみる。

 最初の頃に作った曲は、今聴けば恥ずかしいばかりだったが、表現したかったものは変わっていないように思えた。

 未だ見つからない自分の問いへの答えを見つけたとき、自分は作曲を続けられるのだろうか。

 ミドリはそんな思考を振り落として、放置されていた曲に取り掛かった。


――――

――


 そんな会話の翌週、アグリはミドリに完成した動画を見せていた。

 ミドリは"通話でこと足りるだろうに"と思っていたが、アグリはわざわざ学校近くにあるカフェまで呼び出した。


「いいですね。ただ、少し意外と言いますか、きんとんさんもわたくしと同じ人間なんだなと思いましたね」

「私のことなんだと思ってたの」

「いえ。きんとんさんっていつも明るいので、こんな悩みがあることが意外で。……親近感がわきますね」

「私だって悩むよ」




「不公平なので、わたくしの曲も聴いてください」


 そう言って、ミドリは自分の曲を聴かせた。


「えっ……。これ……ほんと?」


 アグリはその動画を見て困惑した。


「ささみさん!」

「はい?」


 ミドリは一瞬、自分のアカウントを言ったことがあっただろうか、と思ったが、動画に書いてあったことを思い出した。


「ファンです!というか、ささみさんに憧れて作曲始めて」

「落ち着いてください」

「あっ、そうか……えっと、くさもちちゃんってささみさんだったんだ……ですね」

「口調は直さなくてもいいんですよ」


 アグリが作曲を始める最初のきっかけをくれた人が"ささみ"だった。

 きれいな音の中に隠された苦しみに共感し、自分もそんな曲を作りたいと思ったものだ。

 実際に出来上がったのはまるで反対の作品だったが、アグリはこれはこれで気に入っていた。


「知られてしまったからには、証拠を見せておきます」


 そう言ってミドリがログインした本人のページを見せると、アグリもフォロー中の表示を見せた。




「それで、いつ投稿するんですか?」


 話が落ち着いたところでミドリが切り出した。


「うーん……来月の頭?」

「聴きに行くのでそのときは教えてくださいね」

「宣伝はしないでね。フォロワー多いんだから」

「わかりました」


 できればフォローもやめてほしいと言われたが、ミドリは納得がいっていないようだった。

 言っておけばしないことは今までの短くはない付き合いでわかってはいるが、アグリは少し不安になった。

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