第95話「ただのエルザ」
黒の街。
議事堂近くの建物。屋上。
議事堂の出入り口を見張るローランの後ろから、エルザが、ボロボロの正装をはためかせ、長靴の音を立てて歩み寄る。
無言で、敬礼を捧げるローラン。
エルザ「ご苦労だったね」
エルザが答礼を返した。
ローラン「エルザ様。依然として、ヘルタースケルターは議事堂の中に留まったままです」
エルザ「そうか。早いとこ決着をつけないとね」
エルザが、議事堂の方を見やる。
エルザ「ローラン」
ローラン「はっ」
エルザ「下がりな」
ローラン「っ、なぜですか!」
エルザ「命令だよ。下がって他を手伝いな」
唇を噛み、俯くローラン。
エルザは、そんなローランの脇を抜けざま、肩に手を置いた。が、ローランはそれを振り払う。
ローラン「嫌です!!」
エルザ「…。私に逆らうのかい」
ローラン「私を置いていくのですか!!何故です!!」
エルザ「質問に質問で返すな!!」
互いに譲らないエルザとローラン。
エルザ「私に逆らうのかと聞いているのは私だ!答えな!」
ローラン「逆らいます!貴女と共にあれないのなら、命令など私にとっては何の意味もありません!!」
エルザ「団長である私に逆らうのならお前に白薔薇の団の一員たる資格はない!即刻この場を去りな!」
ローラン「どうあっても一緒に居られないではないですか!!!貴女は私の生きる意味だ!!貴女は私の恩人だ!!独りで行くというのなら私はここを通しません!!!」
顔を赤くして怒鳴るローランの頬には、涙が伝っていた。
エルザ「ローラン…」
ローラン「通しませんよ…!」
デュランダルこそ抜いていないが、拳を握り、エルザの前に立ちはだかるローラン。
エルザ「ローラン。聞きな」
エルザが、ゆっくりとローランに歩み寄り、手を伸ばせば触れられる距離に迫る。
エルザを見上げるローラン。
エルザ「私に、もしものことがあったら。お前に後を任せたい」
イヤイヤをするようにかぶりを振るローラン。
ローラン「やめて下さい…、エルザ様」
エルザ「ローラン」
エルザは、右手を伸ばすと、ローランを抱き寄せた。
エルザ「…頼むよローラン。後を託せるのはお前だけなんだ。…お前まで居なくなったら……。私は…」
ローラン「ありえません…、私より先にエルザ様が…!そんな、っ、そんなの…!」
エルザ「…ローラン。私が、お前を拾ったあの日から、お前はいつも側にいてくれた。そりゃあ、常に一緒って訳じゃなかったけど、でも、シュヴァリエ家当主としての私も、白薔薇の団団長としての私も、…そして、ただのエルザとしての私も、お前は他の誰よりも私を見ていてくれた。私の後を継げるのはお前しかいないんだよ」
ローラン「エルザ様…ッ」
エルザ「私のわがままを許しな。お前を失いたくないんだ」
ローラン「私だって…エルザ様を失いたくない…!」
エルザ「分かってるさ。分かってる」
エルザの肩に顔を埋め、静かに涙を流すローラン。
少しの間、2人は語らうのだった。




