第8話「号砲」
スマイル「やあやあ。エルザ君とこの飼い犬君たちだね。ご機嫌如何かな?」
黒の街の裏路地。
セバスチャンが送り出した、シュヴァリエ家の諜報組織「茨」の精鋭である二人が、スマイルと、ガトリングガン型の魔具を構えた大柄な男に前後を塞がれ、進退窮まっていた。
茨1「我々は職務を遂行中です。通して頂きます」
スマイル「困るんだよねぇ。仕事熱心過ぎだよ君たち。休んだらどうだい?」
戦闘態勢に入る茨達、だが、次の瞬間には、スマイルの姿は消えていた。
茨2「どこへ…!?」
スマイル「永久にね」
どこから取り出したのか、スマイルの両手には、デフォルメされたドクロマークが描かれたボールのような物が握られていた。
スマイルが、それを空中に放り投げ炸裂させると、中から黄色い煙が出てくる。
茨達「ぐああぁあッ…!!!」
煙を浴びた茨達は、見る間に、嫌な音と臭いをたてて溶けていった。
見ると、路地の地面や、建物の壁も、溶けている。
それらを、相変わらず表情の読めない微笑を浮かべたまま眺めるスマイル。
そこへ、小さい人影が弾むような足取りで近づいてきた。
彼女は、スマイルの部下、リトル・トラジティである。
リトル・トラジティ「やっほー。団長。早かったねー。高笑いとかしないの?」
スマイル「やぁリト。CEOと呼んでくれといつも言っているだろう?高笑い?」
リトル・トラジティ「団長みたいな極悪人ってこういう時高笑いとかするんでしょ?」
スマイル「そうなのかい?ラッキーボーイ」
スマイルの対面から歩み寄ってくる、道を塞いでいた上半身裸の男に、スマイルが声をかける。
彼は、リトル・トラジティ同様スマイルの部下、ジ・エンターテイナーである。
ジ・エンターテイナー「さぁな。どうだっていい。それより暴れ足りねえ」
スマイル「君のやり方は目立つからねぇ…」
スマイルが、ジ・エンターテイナーの担いだガトリングガンに目をやる。
スマイル「やはり、フィナーレの後に残るのは、鮮烈で綺羅びやかな、思い出だけにしたい。血の臭いが残るのは優雅じゃないからね」
ジ・エンターテイナー「そうか。ま、なんだっていい。俺は帰るぜ」
スマイル「ああ。ご苦労だったね」
裏路地を後にするジ・エンターテイナー
スマイル「じゃ、後始末は頼んだよ。リト」
リトル・トラジティ「はいはーい。何も残らないようにすればいいんでしょ?パパーッとね!」
リトル・トラジティが爆弾をばら撒くと、裏路地に轟音が響き渡った。
火の粉が舞い、バックライトに照らされたようなスマイルの顔が、火薬の匂いを嗅いで歪む。
スマイル「さぁ。幕開けだぞ、エルザ君。狂乱と支配の幕開けだ。火蓋は切られ、号砲は鳴った。君はどう出る?どうするのかな?ハハッ。ハハハハハハッ…!ヒャハハハハハハハハ!!ヒャァーハハハハハハハハァ!!!!」
爆ぜる裏路地を背景に哄笑するスマイル。
道化の高笑いを合図に、黒の街に騒乱が訪れようとしていた。